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Focal ELEARの私的インプレッション: フレンチヘッドホンのあけぼの

Focal ELEARの私的インプレッション: フレンチヘッドホンのあけぼの_e0267928_18225089.jpg


偉大さのないフランスは、フランスではありえない。
by シャルル・ド・ゴール


Introduction

フランスには他国にはない一風変わったメカを作り出す土壌があると思う。
ハイドロニューマチックサスによる、究極の乗り心地を売りとするシトロエンの車。
個性派時計師F.P.ジュルヌはマルセイユの出身。
ルネ エルスの自転車。
プジョーのコーヒーミル。
エロアのコインナイフ。
どれも個性的である。優美である。
それらに共通するのはドイツ人のようにガツガツと高性能を追求しないこと。
その代りにフランス人特有の不思議なバランス感覚が横溢している。
日本人にとって、その感覚はエキゾチック以外のなにものでもない場合もあるが、
機能・性能のバランスを程好く上手くとるという面では、
日本のモノづくりと相通じるところはなくもない。

随分前のことになるが、私はJM LabのMicro UTOPIA BEというスピーカーを使っていた時期がある。その外観、音質ともに個性的なスピーカーだった。
御存知のようにJM LabはフランスのスピーカーメーカーFocalの中に高級なコンシュマー用のスピーカーを製造・販売するブランドとして立ち上がったもの。
つまりMicro UTOPIA BEはFocalのスピーカーということになる。
このMicro UTOPIA BEの最大の売りは極めて自然な高域を実現するベリリウムツィーターであった。
その頃はまだダイヤモンドツィーターはほとんど出てきていなかったので、ベリリウムツィーターは新素材で出来た最新鋭の高性能ユニットとして頻繁にオーディオファイルの話題に上っていた。私はこのベリリウムという素材の威力を突っ込んで聞いてみたかったので、これをしばらく使っていたのである。フランスのFocal社とベリリウムの関係は、この時に私の中に刷り込まれたものと考えていい。
Focal ELEARの私的インプレッション: フレンチヘッドホンのあけぼの_e0267928_18285432.jpg

そのFocalがベリリウム振動板を持つヘッドホンを試作しているという噂は2013年頃から出ていた。その後、音沙汰なかったので頓座したのかと思いきや、2016年の春に見事なヘッドホンの形に仕上げて発表してきた。これは本格的なフランス製のハイエンドヘッドホンの始まりという意味も持つ出来事なのである。ドイツにほぼ独占されていたヨーロピアンハイエンドヘッドホンの世界に別なEU主要国から挑戦者が現れた。
当初、私の眼差しはベリリウム振動板を用いたトップモデルUTOPIAにのみ注がれていた。それは多少、以前の刷り込みによるところが大きかったと思う。マグネシウム・アルミニウムのハイブリッド振動板を持つセカンドモデルELEARはOUT of 眼中であった。

ところが先日、両者を計一時間ほど、とっかえひっかえ、幾つかの機材で聞いてみると意外な結果となった。セカンドベストのELEARは私の長年の刷り込みを解くほど、見事な音のバランスとまとまりを聞かせて、性能で勝るはずの上位機UTOPIAを出し抜いてみせたのである。
正直、こんなはずではなかったという思いはある。
もちろん私の直感から生まれた結論は、所詮、私のものでしかない。
貴方がこれを本気にする必要などどこにもない。
だが、少なくともその雑多ながら輝かしい印象の中身を、UTOPIAかELEARかと迷っている人々の参考にするため、ここに乱雑に散らかしておく価値はあるかもしれない。


Exterior and feeling
Focal ELEARの私的インプレッション: フレンチヘッドホンのあけぼの_e0267928_18224870.jpg

オープン型ヘッドホンであるELEARを手に取って見ると、ハウジングのほぼ全面を覆う金属のメッシュが、少しザラッとした感触を伝えてくる。重さは450g。やはりこれは軽いとは思えない。メッシュで覆われたハウジングはやや大ぶりで中身のキャパシティが大きく、ドライバーはその真ん中に角度をつけて中空に浮いているような形に見える。
ガンメタルカラーのヨークは曲面で構成され、どこか艶めかしいが、剛性感も十分にある。
この艶めかしい輝きにフレンチエキゾチックを感じるべきなのかもしれない。
イヤーパッドはHE1000のような二種類の素材を組み合わせたもので、耳当たりは良い。側圧も丁度良く、MDR-Z1Rほどではないが、頭にフィットしやすい。これはHD800やTH900などの標準的なハイエンドヘッドホンの装着感と同等のレベルである。またMDR-Z1Rよりは薄いハウジングなので、装着時に左右にハウジングが張出し過ぎて不恰好になったりしない。Focalのロゴはヘッドバンドの辺縁部に、“そ”の字のFocalのシンボルマークはハウジングの中央に掲げて、ブランドをしっかりアピールしている。
ELEARはUTOPIAと同じく、リケーブル可能なヘッドホンであり、端子はソニーZ7のそれと同じものではないか?この端子はセルフロック式で簡単には抜けにくい。
パッと見た印象としては、例のごとく普通のハイエンドヘッドホンという印象を抱かせるが、触っていると全体に剛性が高いような印象を持った。微妙な差だが、HD800SやHE1000、Editionシリーズなどのライバルよりもガッチリつくられているのではないか。私の使ったデモ機に関しては全体の仕上げに荒さはなく、丁寧な造りであって、突っ込みどころはない。UTOPIAもELEARも、今のところ高級機らしくフランスの自社工場で生産されているという。
Focal ELEARの私的インプレッション: フレンチヘッドホンのあけぼの_e0267928_18235656.jpg

上位モデルUTOPIAはカーボンのヨークをあしらったり、多数の気孔の開いたイヤーパッドを用いたり、複雑な形状のハウジングデザインを採用したりして、いかにも50万オーバーのスーパーハイエンドヘッドホンというリッチな雰囲気が出ている。造りはどこかマニアックでドイツっぽいが、多数の気孔の開いたイヤーパッドは水玉模様のようでオシャレな雰囲気もある。ケーブル端子はAKGなどでも採用のあるレモコネクターで、信頼性は高そうだ。ELEARより40g重いが、ライバルとなるであろうLCD-4よりもはるかに軽量であり、デザインも洗練されているので、音質でLCD-4と同等かそれ以上のものを出せればUTOPIAが優位に立つことは容易に想像できた。


The sound

Focal ELEARは一聴して、音作りおける優れたバランス感覚を感じたヘッドホンである。
音像と空間の広がり、音像の解像度と濃淡、音の温度感や触感、ダイナミックレンジ、各帯域のバランス、これら全てにおいて過不足ない中庸さ、必要十分なレベルの優秀さを聞かせる。さらに微かに音に艶を持たせているため、聞き味の良さも兼ね備えている。全体に、音調にピーキーな部分が全くないため、聞き疲れが非常に少ない。
このELEARは鋭くアピールする突出した特徴はないが、欠点もほぼない。こういうヘッドホンはなかなか得難いと思う。

FOCALは今回発売したUTOPIA、ELEARの2モデルをウルトラ・ニアフィールド・スピーカーと位置付ける。(私に言わせればウルトラ・ニアフィールド・フルレンジスピーカーだが・・・)スピーカーメーカーが本腰を入れて作ったヘッドホンであり、ゼンハイザーなどのドイツ勢のものとはそもそも出自が違うと言いたいらしい。
言葉のとおりにUTOPIAでもELEARでもスピーカーリスニングで感じられるような音場の広がりや朗々とした響きを目指した努力を聞くことができる。そして、当然のように、これらのFOCALが目指した要素についてはUTOPIAの方がより強いアピールを感じる。弟分のELEARの方がUTOPIAよりもややヘッドホンらしく、やや凝縮された音の印象である。しかし、ELEARはHD800並みの音場の広さ、T1やTH900に聞かれる音像・音程の正確さのレベルに既に達しおり、性能面で萎縮していないので、「よりヘッドホンらしい」とは言っても全く不満がない。ないどころか、ヘッドホンとしてそれらの音質的要素の過不足ないバランスの良さを秘めている。そして、このバランスの良さはUTOPIAにはあまり強く感じられない。UTOPIAはヘッドホンでありながら、ヘッドホンを超えようとする意気込みが強く、無難にまとまろうとはしていない。

ELEARは他と比較しなくてもニュートラルで高性能なヘッドホンであると直ぐに分かるものである。
例えばヘッドホンの世界には様々な材質の振動板が現存するが、金属系の振動板を使いながら、これほど中庸な音質、クセの少ないナチュラルな音をエージングが進む前から出せる例は稀だと思う。金属系の振動板はクッキリとした輪郭の音像は出やすいが、その分、音のエッジがきつく出てしまい、聞く人を選ぶ場合もあるし、長時間のリスニングは疲れる時もある。ELEARは解像度の高さ、音像のフォーカスの的確さがありながら、刺さるような音を一切出さないようだった。
また、広い音場を提示しつつ、曖昧さのない音像定位と鮮やかな鳴りの良さを聞かせて、音質的な偏りや破綻がない。音場と音像、音の解像度と躍動感、音の透明感と色彩感、音の陰影と明るさ、音の艶と荒々しさ。複雑に絡み合う多くの音質的要素が全て過不足なく盛り込まれたリッチなサウンドである。聞きこむとHD800やHD800sよりも音色が濃いのが印象的である。リズムのインパクトが強く、ズシリと来る。ストレートな表現で音が遠くで鳴っている気がしない。ウルトラゾーンの開放型に近いインパクトの強さを感じた時もあるが、とにかくあのヘッドホンよりもはるかにクセが少なく洗練されている。ウルトラゾーン危うしと言っておく。

私見ではELEARは20万円までのヘッドホンの中では最優秀機のひとつである。また私が個人的にハイエンドヘッドホンの名機と思っているHD800(s)、HD650(Golden era)、T1(2nd)、TH900(mk2)、Edition9、PS1000、HE1000、SR009、LCD-4そして、これからこの群に加わるであろうGS2000e, MDR-Z1Rなどと比較しても、総合的な評価で勝るとも劣らない位置につける。正直、音像、音場、解像度、ダイナミックレンジなど、一つ一つの音質的な各要素の優秀さに関して、最高得点を取るほどではないかもしれない。しかし、それら全てで一位にならないまでも二位には必ずつける感じである。陸上で言うと十種競技の金メダリストのようなヘッドホンなのである。全ての音質要素の高いレベルでのバランスの良さという点ではこのELEAR以上のヘッドホンを私は知らない。

格上であるUTOPIAは音の解像度の高さ、音の器の大きさ、つまり聞こえる音の量感の大きさといった点ではELEARに勝ると思う。だがそれらのメリットと引き換えにベリリウム振動板特有の高域の僅かなアバレや時にドライブ感の少ない寂しい出音などに違和感を感じることもなくはない。中でもUTOPIAについて私がやや不満なのは、つなぐヘッドホンアンプとの間に相性があるらしいということ。これはアンプの駆動力の問題ではなく、ベリリウム振動板のキャラクターに合ったヘッドホンアンプでなければならないという意味のようだ。例えばRe Leaf E1 classicでUTOPIAを駆動しても、伸びやかさの足りない詰まった音になってしまうことがあった。(これは当日、フランスから来たFocalの担当者もそういうニュアンスの話をしていたので、私だけの印象ではなかったようだ。)Luxmanのアンプでもどうもしっくりこない曲がある。朗々と鳴る感じがなく、高域に微妙だがはっきりとしたクセが残るような気がした瞬間も。これではどうやら、JM Labのスピーカーの出音から予想されたナチュラルな音に微妙に届いていない。何が邪魔しているのだろう?エージング前のウルトラゾーンのEditonシリーズのように、あれほどカンカンした響きが乗りやすいというわけでもないが・・・。やはりエージング不足か。
結局、CHORD DAVEのヘッドホンアウトに直に挿した時、最も本領が発揮された音になった。どうして本領と分かるか?それはもちろん自分が使っていたFocalのスピーカーMicro UTOPIAのツィーターの音を基準としているのである。ベリリウムツィーターはキャラクターが少なく、自然な風合いが特徴で、いかにも「高域が伸びています」的なアピールの少ない、質実剛健な音調である。音の質感に以前の新型ツィーターにありがちなザラついた感じも皆無で聞き易かったのも記憶に残っている。それでいて、それぞれの楽器や録音の時代の違いをバッチリ出してくる。一言で言えば、堅実でありながら極めて優秀という印象なのであった。ところがUTOPIAを他のアンプで聞いてもそういう印象がはっきりしなかった。CHORD DAVEのヘッドホンアウトでやっとスピーカーを彷彿とさせるスケール感を秘めた穏便な高域や、全帯域にわたる自然な質感を愉しむことができたものの、56万のヘッドホンとして購入に値するかどうか、よく検討しなおさなければならないと思った。それは主にLCD-4との比較でそういう結論になるのである。あのLCD-4の出音については一聴して完璧なレベルに達していて、他のヘッドホンと一線を画していた。私個人はUTOPIAに関しては未だにそのレベルの音は聞けていない。UTOPIAについてはもっとエイジングを進めたうえで、さらに多くのHPAで、多数のヘッドフォニアがテストしてその潜在能力を測ってみる必要があるのだろう。なぜDAVEのヘッドホンアウトという、ヘッドホンドライバーとしては比較的貧弱なものが適合したのかを含めて、UTOPIAとHPAの相性について深く知りたいところだ。

一方、ELEARでは上記のような問題がほとんど聞かれなかった。どんなアンプでもヘッドホンの実力が出せるようだし、アンプの良さも分かりやすい。例外的な電流駆動のE1 Classicでのリスニングはもう少し聞きこみたい気もしたが、DAVEダイレクトのリスニングは至極快調であり、各々のアンプの音調の違いも分かりやすかった。これはメタル振動版としてはクセがかなり少なく鳴らし易いからだと推測する。このようなクセの少なさは振動板がマグネシウムとアルミのハイブリッドであるからではないか。ハイブリッドすることでそれぞれのキャラクターを互いに抑えている可能性がある。冷静になって、音の解像度やスケール感でELEARが若干UTOPIAに劣ることからUTOPIAに軍配を挙げるというの人もおられるかもしれないが、私としては、この程度の弱点はリケーブルやHPAの性能を上げることで、どうにでもカバーできるのではないかと思ってしまう。とにかく私はUTOPIAについては単純に高価なアンプをあてれば、より良い音を出せるという確信が持てないので、これを使いこなすにはヘッドフォニアとしてのスキル・経験と覚悟が必要となるだろうと考える。誰かがこのヘッドホンを上手に歌わせるセッティングを調べて、突き止めてくれるまで、あるいはFocalがUTOPIA MK2を出すまで日和見しても損はない。


Summary

フランス製のELEARとUTOPIAの登場はドイツ・日本、中国、アメリカというハイエンドヘッドホンの4強独占状態に小さくない風穴を開けるはずだ。かくして世界のヘッドホンの国別の勢力地図は若干だが塗り替えられることになる。
ここまでのFocalの目論見として、軍団の中心たる旗印としてUTOPIAを置き、その周囲を固める実戦力としてELEARを配し、そして斥候あるいは露払いとしてSpirit ONEを先発させるという作戦・陣形を描いているはずだ。
その構図の中でセカンドベストモデルであるELEARは一見地味な存在にも見えるが、まぎれもなくフレンチヘッドホン軍団の主戦力・中核的存在である。それは各社のフラッグシップヘッドホンと対等以上に渡り合い、格上であるはずのUTOPIAさえ、総合力では凌駕しうる素晴らしきオーディオギアなのだ。その絶妙な音質バランスに、フランスのモノづくりの底力を見た思いである。
私見ではELEARは、その完成度の高さからみて、ヨーロピアンヘッドホンの一つの基準点、もしくは名機として位置づけられ、長く愛される可能性がある。
これほど完成されたヨーロッパのヘッドホンは数えるほどもないと思う。
熱心なヘッドフォニアがHD800やT1などの欧州製の名機を必ず通り過ぎなくてはならないのと同じく、我々はELEARを一度ならず体験しなくてはならなくなるだろう。
予定外ではあったが、私は確信をもってELEARの予約を入れた。

by pansakuu | 2016-10-08 19:33 | オーディオ機器