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Fundamental RM10の私的インプレッション:迷いなきもの

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Less is more.
ミース ファン デル ローエ (建築家)



Introduction

オーディオ関係のアクセサリーなんかを買おうとして、電話で注文しますと、
「万策さん、それは買わなくていいと思います。」ときっぱり言い切る店員さんを知っています。客が良かれと思って注文を出したのに、自分のポリシーに合わないというだけで、あれほどはっきり断る人を私は彼以外に知りません。

彼がアレンジしたシステムから出る簡潔なサウンドは、くだくだしいところが皆無で、信号経路上の全ての機材が音に関与する印象がないですね。音が全くの素通しというか。高級なケーブルを沢山使っていた頃の音、知らず知らずのうちに過剰なゴージャスさを目指していた自分のサウンドとは正反対の、清貧とも言うべき彼のサウンドを聴き、私はその見事な信念の貫き方に唖然としたのを覚えています。冗長さを排したオーディオとはああいう音のことを言うのでしょう。

その彼が近ごろ推しているスピーカーがあります。
私は今、そのシンプルなスピーカーの前に立って、その姿を静かに眺めているところです。

このスピーカーはずっと以前から聞きたいと思っていましたが、なかなか機会がなかった。
やっと購入した方を見つけて交渉、丸一日、自由に試聴させていただくことができました。
(画像はメーカーHP等から拝借させていただきました。)


Exterior
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Fundamental RM10は大袈裟なスピーカーではありません。
片チャンネルの大きさは小さなダンボール箱ほどしかない。
幅21.6×高さ36.4×奥行30.5cmという大きさ。
このFundamental RM10なら両手で抱え上げることも大して苦じゃない。
重さは片チャンネルで10.5kg。
青いツィーターとウーファーをはめこんだブ厚い黒いアルミのバッフル、明るい集成材のサイドパネル、特殊なバスレフ構造を取るリアパネルに触れる指先には、なにか信念のようなものが伝わります。このスピーカーには凡百のブックシェルフスピーカーとは異なる能力が与えられているはずだと私は感じました。

このスピーカーの全体の形はプロフェッショナルが使う機材特有の簡潔で、いささか凄味のあるデザイン、スパッとカットアウトしたようなデザインです。
機能から生まれたカタチと思わせる、本当に四角い箱の形でしかないスピーカーです。ツィーターとウーファーコーンの青は素敵な色のアクセントになっています。
この機材ではウーファー、ツィーター、ネットワーク、エンクロージャーという、ひとつひとつの要素は深く吟味され、確信をもってそこに取り付けられているような印象があります。そして、それらにまつわる電気的な精度、工作精度、組み立て精度も執拗に追い込まれているように見えます。このギリギリ感に、僅かな不始末も見逃さず不本意な作品をふるい落とそうとする厳しい製作者の眼差しを私は感じてしまいました。まるで以前に会った陶芸の人間国宝の方の眼のようなシビアな感覚です。それは、自分の目指す世界には針の孔のように細くて小さな所を通り抜けないと行けない、とでも言いたげな厳しい眼差しでした。
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これだけの厚みのある金属のバッフルに単なるMDFではなく、フローリングの資材のような集成材のエンクロージャーを組み合わせる。しかも内部に吸音材を使わず、そのかわり内壁をプリーツのように切削加工して仕上げる。バスレフポートはバックパネルの大部分を覆うほど大きな集成材のボードで遮られて見えませんが、このボードは目指す低域の解像度と量感を得るための仕掛け。ほぼ類例のないポリプロピレン製のコーンを持つ同軸型2wayと同口径のウーファーの取り合わせ。そしてネットワークは高精度コンデンサー一個だけという潔さです。
各部の特徴には前例が全くないとは思いませんが、これだけ前例が少ない設計を一つのスピーカー落とし込んだブックシェルフスピーカーというのを私は初めて見ました。結果として全く前例のない設計のスピーカーが完成したことになります。

そう、スペック上で私が注目したのは能率ですね。91dB。ブックシェルフとしては、結構高い数値。小さなパワーでもスパーンと鳴ってくれそうだと。ですが、実際使ってみると、これはハイパワーなアンプで音量を上げてドライブすべきスピーカーでした。やはりスペックだけじゃオーディオは分からない。

プロ的で個性的なRM10とは言っても、フロントパネルにはサランネットが取り付けられるし、手頃な大きさで、しっかりした3点支持の専用スタンドも別売りされていて、使い勝手は悪くないです。使わないときは片づけておけるような大きさですし、アクシデントでウーファーコーンを傷つける心配もありません。意外にユーザーフレンドリーな側面もあります。


The sound 

よりハイパワーなアンプを結線し、より大音量でドライブすればするほど、より音の透明感が増す不思議なスピーカー。それがFundamental RM10の第一印象でした。これほどの音の透明性は、このクラスのスピーカーでは、ほとんど類例がないものでしょう。
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今回の試聴では、まず山下達郎のアルバム For Youから、Sparkleを聞いています。
オープニングを飾る、素敵なギターフレーズがカラッと明るく、そして鮮度高く、部屋中に響き渡ります。その瞬間、ギターと演者、そして周りにある空気がまさにここに在るように私には聞こえ、ドキッとしました。ここではこのスピーカーから繰り出される張りのある音、テンションの高い音調が、山下のギターのカッティングの上手さを際立たせます。(彼はこの点では日本一じゃないでしょうか?)どちらかというと硬めで立体的な音像なのですが、適度な温度感があるのが好ましい。音場が澄み渡っているので、その音像を耳が捉えることに、なんの苦労もないのが嬉しいです。音の解像度が高いせいだけでなく、このクリスタルクリアーな音場が、この透明感を生み出しているようです。ボリュウムを上げると音場はますます澄んできます。不思議です。楽器どうしの音の分離が良くなってゆく印象もあります。Sparkleはもともと非常にセンスの良い、清々しい楽曲で、とても山下達郎らしい音楽なのですが、このスピーカーで大音量で聞きますと、音の細部までパンパンにニュアンスが詰まった充実したサウンドで、予想した以上に楽しむことができます。

逆に言えば、RM10は小音量では本領発揮と行かないところが欠点でしょうか。小音量ですと借りてきたネコみたいに覇気のない眠い音を出して、BGMとしてさえ聞くに堪えないと思う楽曲がありました。どこらへんまでが小音量なのか、というのは個人差があると思いますが、常識の範囲内で、やや大きめの音で聞いた方が断然素晴らしい。実際、このスピーカーは大音量に強いようで、同じ価格帯のブックシェルフだと飽和して楽音の輪郭が崩壊してしまうような音量まで上げてもクリアネスが落ちない。その点は突き抜けていますね。

演奏中、エンクロージャーを触ってみると細かな振動を感じました。Q1ではこの振動はありません。Q1ほどガチガチな箱ではないのです。音量を上げると、この振動は大きくなります。しかし音は冴えわたっている。こういうことは普通のスピーカーでは起こらないことです。これは内部のプリーツ構造が効いているのかもしれません。

また、RM10は定位が大変に良いスピーカーです。細かいスピーカーのポジショニングの調整、ルームアコーステックの調整なしでもビシッと楽器の位置が決まって全く揺るがない。ピンポイントソースであるブックシェルフスピーカーの良さが前面に出ています。各帯域のバランスも巧く取れていて、非常にフラットな出音です。今回の試聴では、他の方のインプレで言われていた中高域の張り出しは感じませんでした。ツィーターとウーファーのつながりの良さも文句無いもので、まるでフルレンジスピーカーを聞いているかのようです。
まあ、こうして述べてゆくと、優秀で無個性な現代スピーカーの定型的な褒め言葉の羅列でしかないようですが、まさにそうなのです。このサウンドには、外観や設計から来るイメージに反比例して個性が少ないと感じます。出音の優秀さが全面に出ています。

音の立ち上がりが急峻で、しかも音の終わりに全く尾引かないという意味で、反応がかなりクイックなスピーカーだとも感じました。最近、随分短いフラットハンドルに換えた街乗り自転車を見ますが、ああすると僅かなハンドルさばきに、とっても敏感になります。あの感覚に似た、音の変化に対する機敏な反応性がRM10にあるように思います。小型スピーカーに求められる、こういう小回りの良さ、俊敏さは期待以上のものがあります。

さらに、このスピーカーでの音の手触りの表現は素晴らしい。このテクスチャーの表現のリアリティは他のブックシェルフスピーカーには無いものと思います。ギターの弦の材質やドラムの貼り具合、打ち込み音の微妙な設定の差異を明瞭に聞かせます。聞く側の脳に音の種類の引出しが多くあればあるほど、このスピーカーが聞かせる音の手触りのバリエーションの豊富さに驚かされることでしょう。

このスピーカーの基本的態度として、視覚的な音を出す現代のスピーカーということなので、常に音楽を演っている様が見えるような出音です。小編成の器楽曲の優秀録音では、マイクのセッテングとか、演者どうしのインタープレイなどの演奏のウラの部分が克明に分かる瞬間が何度も訪れます。単純に屈託なく音楽を楽しむだけではなく、濁り無く耳に届られる音の細部を検討し、評価するような使い方にも向いていると思われました。言い換えれば脚色のない素通し感のある音で、音楽にもともと無い要素が付加されるようなことがありません。ここのところは音楽によっては、すこし厳しいかもしれないとは思います。楽器自体の出音の曇り、ハーモニーの不協和があからさまに聞こえてしまいますから。このスピーカーはミスを見逃してはくれない。

なお、ブックシェルフスピーカーにありがちな音質上の様々な制約は、このRM10にはほとんど感じないですね。例えばダイナミックレンジはこの手のスピーカーにしてはかなり広く取れていると思われます。また、低域もかなり深いところまで自然に伸びている。スペックは25Hzを謳っています。ただし、この広大なレンジや深い低域を得るには、優秀なアンプが必須です。試聴では2種のパワーアンプを使いましたが、出力が大きく、歪みが少ないと考えられるアンプで最も制約感のないサウンドが得られました。それは当たり前だと思われるかもしれまんせんがが、実際、多くのスピーカーを聞いているとそうでもない。マッチングというのは、予想されるほど単純ではないことが多いのです。私はこのスピーカーにSoulution 710を組み合わせたくなりました。

高級ブックシェルフスピーカーとして、他にもいろいろなスピーカーもありますから、試聴の傍ら、それらと比較するのも面白い。例えばDynaudio Confidence C1 signatureのような響きの豊かさや低域の量感のある音調ではなく、RM10はもっとスレンダーな音です。またKISOのHB-X1やフランコ セルブリンのAccordoのような音の艶、芳醇さはRM10には全くありません。ですが、あれらよりも、ずっと正確な音を出せるスピーカーです。またB&Wの805DiamondやElacのBS314と個人的な音色の好みを抜きにして比較した場合、ほぼ全ての面でRM10が上回ると思います。しかし、これらのスピーカーの出音には独特のチャームポイントがあり、それがいい意味での個性となっていますので、それをどう考えるか。RM10のフラットで、言わば素っ気ない音調が好みでない方は、私の意見には賛成しないでしょう。

個人的には、こうしてパワーを十分に入れてやって大音量で鳴らせば、はるかに高価なMagicoのQ1やS1にそれほど聞き劣りしないサウンドと思います。特にS1は音調も似ていて良いライバルと思います。S1はRM10よりもっと余裕のある、高級感のある音ですが、音場の透明感や音の脚色の少なさではRM10が勝ると思います。
とにかく私の贔屓を差し引いても、このクリスタルクリアーな明晰さは100万円クラスのスピーカーでは得難いというのは間違いないでしょう。かなりコストパフォーマンスに優れたスピーカーだと思います。後は、このモニター調の出音がお好みかどうか、ということになります。

セッティングは、それほどシビアに決めなくてもシッカリした音が出るスピーカーと思いますので、お好みでどう置いてもいいとは思うのですが、私としてはやはりニアフィールドでポジショニングを煮詰めて聞いた音が良かった。いろいろ試しましたけれど、最終的にはオーナー様が決めていたセッティング、すなわちリスニングルームの天井から俯瞰して、リスナーの頭とスピーカーの作る正三角形の位置関係の一辺が2.5m位というところで聞くのが耳馴染みが良かったです。耳とスピーカーの距離はさておき、とにかくスピーカーの間隔は離しすぎない方がいいようです。このスピーカーの出音は指向性が高いので、このポジショニングだと頭を少し動かすだけで定位がズレるのが難点ですが、ステレオイメージの広がりや、音圧などの点でも最適でした。

ただし、この専用のスタンドが、本当にこのスピーカーに最適な強度と高さなのかどうかは私には分かりませんでした。この三本の支柱をもっと太く丈夫なものにしてベースプレートとの一体感も高めたらどうなるのか、私は興味があります。スピーカーケーブルの選択も、そのラインが長くなりがちなブックシェルフスピーカーでは重要な検討事項でしょう。今回の試聴では純正ケーブルを用いましたが、これが最適なのかも分かりません。また、スタンドの高さについては、自分の耳の位置だともう少し高くてもいいかもしれないと感じました。そうすると低域が確保できなくなるかもしれない?それなら、邪道と一喝されても、エクリプスの新型サブウーファーを組み合わせるのはどうでしょう。これらの機材の置き場所があったら試してみたいものです。
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試聴の中盤には、入手したばかりの残響のテロルのサントラを聞いてみました。
この音楽では、菅野よう子が持っている多くの音楽の引出しのひとつが全開になっています。美しくもどこかメランコリックなメロディとビートの絡み合いが容赦なく展開。ここでは低域の一音一音に、なにかアニメ作品に対する思い入れのような激情を感じる瞬間がありました。この感動はスピーカーの充実した低域に由来するものでしょうか。なんだ、なんだ、こんなに強く切ない音楽だったのかと聞き入ってしまいましたね。
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最後に、たまたま手元にあった蟲師のサントラを抜粋して聞いてみます。
RM10は、この物語のようなサントラの持つ、綺麗なアンビエンスを見事に現出させます。キメの細かいシンセの出音のテクスチャーから想像される、ゆったりと流れる下る光の大河のイメージが、ブックシェルフらしからぬ余裕をもって現れたことに驚きました。この音楽は滴る雫のような表現、凛として響き渡る高域が特徴なのですが、これらの特徴的な音のイメージが、とてもピュアな形で耳に迫ります。これほどの音の純度の高さのアピールができるスピーカーは稀有です。
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RM10のサウンドの素晴らしさは、スピーカーやアンプの能力で演出されたものはなく、音楽ソースの持つありのままの音をそのまま出した結果なのでしょう。もともと音楽とは豊かなものだという、根源的な信頼がこのスピーカーの音を迷いのない、純粋なものにしているのだと勝手に合点して聞いていました。ここにはスピーカーの容積やネットワーク、ユニットによる演出はどこにもない。生成りの音があるだけなのです。


Summary

RM10はスピーカーというトランスデューサーの設計における様々な複雑さを、禅僧の如きシンプルかつ妄執なき発想で回避した結果、ブックシェルフではほぼ前例の無い純粋さと透明感を獲得したスピーカーと言えるでしょう。これは余計な要素を捨て去ることで辿り着いた音です。あれもこれもと欲張らないで、目指す音に真っ直ぐに迷うことなく到達した、そんな音でもあります。これに似たスピーカーはオーディオフィジックとかルーメンホワイトの製品にありますが、それらのどれとも異なる味わいです。あれらよりも、もっとシンプルで透明な音なのです。

それから試聴して強く感じたのは、やはり音楽と真正面から向き合う事をリスナーに要求するスピーカーだということ。「~ながら」で、このスピーカーから出る音を聞くのは無理があります。その点でも使い手を選ぶかもしれません。

では、この音について私はYesなのかNoなのか。
件(くだん)の店員さんのように、このスピーカーの音について、シンプルにスパッと言い切ることができるような能力も性格も、私は持ち合わせません。私はかの人ではないのですから。
オーディオってそんなに簡単に割り切れるほど単純なものだろうか?
私などは、そう呟きながら迷いに迷うのみです。むしろ、その迷いがオーディオという趣味の本態の何%かを占めているはずと言いたいくらい。

ただ逆に、こういう迷いのない音に出くわすと、心底すがすがしい気分になれるのは認めましょう。例えば、手放しの自転車で坂道を下ってゆくのは危険ですが、なにかスリルを通り越した快楽が手に入るのではないかと人は密かに期待するものだと聞きます。そんな感じで、なにかをかなぐり捨てて、初めて至れる場所に、このスピーカーは私を連れて行ってくれそうな予感があります。
これほどクッキリ、キッパリして曖昧さ・迷いの無いサウンドについて行くのはもしかすると容易ではないかもしれない。ですが、その冒険の先には、多くのオーディオファイルにとって未知の地平線が拡がっているのは間違いなさそうです。

by pansakuu | 2014-07-26 19:44 | オーディオ機器