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ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について


ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について_e0267928_1421583.jpg

「まず食ってみなければ、旨いかどうか分からない。」
by 万策堂



5分間で人は何を感じられるだろうか。
しかも、それは1分ごとに寸断された5分間である。

私は27個目の台風に煽られた雨を突いて、徹夜明けの職場から青山へと向かう地下鉄の中で何かを期待していたことは認めよう。では何を?ULTRASONE edition5が最大の気がかりだったのは事実である。ただし、不安だった。いままでeditionシリーズはおろかULTRASONEのヘッドホン全般の音を私はいいと思ったことがない。あの強靭な高域と低域が耳を刺し、私を否応なく疲れさせるからだ。耳奥に何かを訴えかけるエモーションを、ヘッドホンアンプの性質とはまるで関係なく付加するヘッドホン界の雄ULTRASONE editionシリーズには敬意は払えども、この使い切れない高域の金属っぽい痛さに辟易し、私は敬遠してきた。これまた強烈な音の持ち主GEM-1とedition9を合わせてみたこともあるが、私は10分もたなかった。
ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について_e0267928_14231626.jpg
エージング?私はエージングで、この癖が完全にとれたedition9をまだ聞いたことはない。その馴らし運転の成果はいずこに聞こえるのか?私は知らない。それはオーナー様たちの脳内にのみあるのか。
「edition9は我慢のヘッドフォン」というのは名言とは思うが・・・。

とはいえ、最近のヘッドホン界、お手軽なモノが横行しすぎやしないかとも思う。ヘッドホン自体の音質の飛躍的な向上や音の個性の差別化、装着感の改善はまるで感じない。強力なドライブ力や、ずば抜けて優秀な特性・音楽性を持つハイエンドヘッドホンアンプも、新製品としては、ここ一年ほとんど聞かなかった。高価格帯のヘッドホンもアンプも結局固定化してしまったように思える。特に据え置き派はつまらない日々を送ることを強要されているようだ。この退屈の一因はもちろん、HD800、TH900、SR009、T1などの定番のハイエンドヘッドホンに新しい機種が追加されないこと、それらに関するハイエンドリケーブルなど新たな話題が巻き起こらないことにある。edition9の如き、アクは強くても夢があり、実力もある、そういうヘッドホンが新しいオーディオを切り拓くことを私は渇望していた。

当然、私は並んだ。
ULTRASONE edition5をひとり一分間試聴できるという列に私は並んだ。
時間を置いて5回並び、5回聞いてみた。
聞けたのは計5分だけ。5回聞くのに間を入れたので、夕方近くまでかかった。
ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について_e0267928_14245986.jpg
なお、祭りのほぼ全てのブースを回ったが、私にとって他に面白いモノはほとんどなく、凄いと思えるモノはさらになかった。ヘッドホン祭りのレベルが落ちたのではなく、ヘッドホンオーディオは今、中価格帯、低価格帯のラインを充実させる時期にあたるのだと自分を納得させながら歩き回っていた。今回新たに頂点を目指したヘッドホンオーディオを展示しようとして、それなりにサマになっていたのは結局ULTRASONEだけだったように見えた。

言うまでもなく、edition5の外観や付属品、材質や内部構造については私がいつものようにクドクド書かなくても、いくつかの公式なブログが詳しく教えてくれるはずだ。そんな面倒な手間は他の方々に任せ、私はedition5の音とそれを取り巻く事々について、自分が思ったことのみをストレートに書きたい。
(なお画像等はフジヤ様から頂いております。素晴らしいイベントを有難うございます。)

以下の断章はインプレッションとは言えまい。
モノを聞いた時間があまりにも短すぎる。
話にならない。
これは思いつきの羅列に過ぎない。
ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について_e0267928_14221248.jpg
ついに、自分の耳で長時間聞いていられそうなeditionシリーズに出会えた。
辻 仁成という作家は、後に妻となる中山美穂さんに初めて会ったとき、「やっと会えたね」と言ったらしい。初対面の人にそう言ったのである。
私もいろいろと憧れ、試し、空振りしてきたeditionシリーズの中で初聴のモノとしてのedition5に「やっと会えたね」という言葉をかけたくなったことを告白する。
つまり、やっとエージングについて語らずに、耳にそこそこ刺さらないeditionの音が聞けたというのが第一印象なのである。確かにまだ刺さりがなくなったわけではない。まだ金属的な質感が残るが、私の記憶の中のeditionシリーズ刺さり方とはかなり異なる印象を持った。マイルドな高域とはお世辞にも言えないが、キレ良く伸びて心地よく感じられることもある、ぐらいは言ってしまっていい音であり、私は本当に安堵した。
これはハウジングの多くの部分に木を使ったこと、それも地中に埋没し、経年変化で硬化した特殊な木を使用した成果だろうか。このチューニングはこのメーカーで今までなかったものでもないが、Editionシリーズとしては、今までで一番大きな変化であるように思う。埋もれ木細工は日本にもあり、独特の木目と色合い、普通の木では得られない硬さゆえ珍しがられるのだが、このような銘木をオーディオに使う、しかもコスメティツクのみならず、積極的に音響的なチューニングとして使うとは面白いアイデアである。邪道なのだが、このウッドの部分を他のブライヤーウッドやローズウッド、紫檀、フィンランドバーチの集成材などに勝手に置き換えることができるとしたらさらに面白い。音もルックスも大きく変わるだろう。

中域は透き通って、見晴しもよく細かい音を隅々まで存分に聞かせる。音を分解して聞かせる能力の高さはこのメーカーらしさが横溢していてニヤリとさせる。ここでの音の粒立ちの良さは現行のヘッドホンの中では随一だし、ホーンスピーカーのように短い距離ながら音をポンポン飛ばすような活きの良さはULTRASONEらしい。ここでも高域と同じく若干カンカンいう感じは残るが、これこそエージングで消えてくれるだろうと期待できる範疇。楽音の動きに対するレスポンスの良さも格別。TH900よりも音の動きは闊達かもしれない。スローな古典的なJAZZでのタメを効かせたベテランミュージシャンのボーカルよりは、アニソンで声優さんたちが弾ける瞬間を楽しむのに、この音作りは向いている。
私個人としては、こんなつまらんハイレゾデータではなく、CDのリッピングデータでいいからOASISのTIME FILES・・・を通しで聞きたくなった。

低域は今までのeditionシリーズより深く、安定していてedition12のように空振りしない。しっかりしたグリップを確保する。量感はやはりそこそこで、手持ちのTH900のふくよかさには至らない。そうは言ってもここらへんはeditionシリーズの成長の跡を見るところだ。edition9の高域は勿論、低域も刺さって痛かったのだが、今回は全然そう感じない。楽音の変化に対する反応もやはり早く、スピード感と彫りの深さのある低域が迫る。この低域はeditionシリーズ中では最も深々としている。もちろん、相応の送り出しとヘッドホンアンプとのペアでという条件つきだが。そういう意味では、(私の印象では)このヘッドホンと釣り合って十分に鳴らせるポータブルアンプは今の市場にはなさそうだ。この低域の変化は一層深く、柔らかくなったエチオピアンシープスキンのイヤーカップと無関係でもないだろう。また、このイヤーカップの改良による、この装着感の良さは、低域への影響のみならず、全体の聞き味の向上に少なからず影響しているはず。

S-Logic EXの威力か、確かに以前よりも音像の在り方がスピーカーオーディオに起こるステレオフォニックに近く感じられ、飛び出しを伴っている。音の輪郭はeditionシリーズで回を重ねるごとに淡く、滑らかで自然な形に変化しているようだったが、ここでは、あのedition9での、サバイバルナイフというよりは手斧で成形されたような荒い音のエッジは完全に消えた。スムーズと言うべき音の輪郭が今日は得られている。
音場の広がりというのは、密閉型としては標準的でしかない。TH900より若干狭く感じたし、HD800やedition12などの開放型とは比べものにならぬ。ただこれはヘッドホンアンプやソースの質の影響を受けやすいと思うので、何を組み合わせるのかに拠る部分が大きいのでは。評価は保留してもいい。だがやはり、空間表現力が、現在のハイエンドヘッドホン全般の中で高い部類とは言いにくい。

全体のバランスでは、常にドンシャリ感が付きまとうeditionシリーズだが、これも今回は随分フラットになったようだ。とはいえTH900のようなファットな中低域にコアがあるバランスになったのではなく、やはり高域と低域にハイライトを感じる。しかしedition5のどこか金属的ながら濃密かつ分解能の高い中域も試聴中、常に主張を繰り返していた気がする。全体に洗練されたeditionだが、洗練されすぎてはいないのである。これはどこかが尖ったULTRASONEの本来の音のイメージから外れていない。HD800のように客観的に取り澄ましたところはない。また逆にedition9のように強烈に意識を音楽へ集中することを強要するのでもない。そこはあくまでマイルドではある。だが、edition9に私が認めてきたギラギラした音の輝き、あの力の片鱗、あの栄光のような輝きの片鱗をedition5が随所に垣間見せたのは嬉しい発見だった。

全てを忘れて没頭し、計5分間で聞けた音質についての情報はこれだけである。
このサウンドを聞いて思い出すのは、どんな料理もスイーツも、つまみ食いでもいいから、まずは食ってみなければ、旨いかどうか分からないものだということ。これはオーディオでも同じらしい。
今日は、やっとそれなりにいい音が聞けたと思った。たった5分間だけだが。

ここでさらに、
外観や使い勝手などについて詳しくは書かないにしろ、気付いたことを補足するとしたら、やはり掛け心地の良さについては言っておきたい。会場でのAbyssの装着感の酷さが印象に残ってしまったせいかもしれないが、私にはedition5はシリーズ中では最も快適な装着を約束しそうな気がした。TH900のフィットもとても良いが、勝るとも劣らない。なにしろ280gと軽い。TH900は400gもある。さらにedition5のクッションは柔らかく厚く、触感も気持ちいい。音質と同じくらい装着感を重視すべきジャンルであるヘッドホンで、これは大きなアドバンテージを生む。これだけ軽くて装着感がいいと外に連れ出したくなるが、全体にやや大きく、きちんと鳴らせるポータブルアンプが、今の所は思いつかないのが惜しまれる。
ウッドを基調としたイヤーカップの外観の大人びた渋い味わいは、音を聞いた後では高域の進化をイメージさせるし、edition8と共通らしい信頼性の高いヘッドバンドとヒンジの組み合わせも陳腐ではない。
ULTRASONE edition5 を聞いた5分間について_e0267928_14232857.jpg
付属品の多さも目を引く。ハードケース、ソフトレザー製のポーチとスタンドには新味なしだが、着脱式のヘッドホンケーブルについては標準、ミニプラグ両方装備され、さらにそれを変換するアダプターまでついているところがいい。これは色々な機材への接続の道を拓く。ただバランスケーブルがないのが惜しい。オプションで発売するのだろうか。それとも誰かがまた作ってくれるのだろうか。

ここまで聞いて、見て、触って、様々に考えてきたが、私は重大なことを忘れていた。販売価格を見ていなかった。いくらですかと聞くのを忘れていた。私の周りに一緒に並んでいる人たちも黙ったままで、たまたま誰もそれを聞かなかった。私の質問、それは受け付けのお兄さんに対して飽きるほど繰り返された質問のはずなのだが、彼はにこやかに答えてくれた。
「限定555台で、49万3千5百円でございます。」
私がその時、計算したのは同じ密閉型のハイエンドヘッドホンの定番Fostex TH900との価格差である。否、価格差というより何倍の価格かということである。2013年10月末現在、最安で132500円のTH900の3.7倍、約4倍の価格のヘッドホンである。4倍の音の価値はあるだろうか?こういうことを数値で比較することはどこか可笑しいが、ここで私はそういう理不尽な欲望を抑えきれない。
TH900というのは、ほぼ全ての側面において満点に近づく素晴らしいヘッドホンである。edition5をコイツと比較すると、私の感覚では音の価値で言えば1.2倍もかなり怪しいと思う。その外観の美しさ・質感の良さについても然りで、edition5に1.2倍の外観的価値があるとすら断言しかねる。総合的には、edition5とTH900はほぼ同等の価値があるヘッドホンだというのが、私の偽らざる印象である。さすれば、そこに差を見ようとするなら280gという相当な軽さにか?はたまた音の個性にか?もし個性を感じるとすれば、やはりあの高域と低域の深さにか?だが、そこに4倍の価値を見出せるのか?
やはり難しい。
edition5は価格の絶対値そのものが単純に難しいのではない。
他社の同レベルのヘッドホンの価格と
edition5の約50万円という価格との
“釣り合い”が取れないので難しいのである。
ここが、このヘッドホンの最大の難所である。

確かに、この価格に全く根拠がないとは言い難い。
新規にヘッドホンを作るための新たな金型、掘り出した特殊なウッドを相当量押さえて、外注で歩留まり少なく加工、特殊な皮革を必要分だけ仕入れて手作業で縫製、新規開発のヘッドホンケーブル、ドイツ本国での製造(確認してないけど、もちろんそうなんですよね)とクオリティコントロール等々。これらを555個分、一度にやって売り切るリスクを考えたときの価格・・・・。
確かに有り得ないものではないような気がする。

今ある情報全てを総合して考えれば、これはやはり多くのハイエンドヘッドホンを遍歴して、それらを既に使いこなし、いわば「鳴らし切り」、もう飽きてきた人が、それでもまだなお、新たな音を生み出す可能性を求めて買うモノだろうというのが私の最終結論である。
もちろん、やろうと思えば50万円をいつでも動かせる立場にあることも必須条件だが、ハイエンドヘッドホンを愛好する今ドキの若い層はそんなに給料をもらっているだろうか?老後のための貯金を忘れていいような社会状況だろうか?

音はまあ良い。デザインもOK。質感も良くて、使い勝手も十分に良いし、軽さもgood。しかし価格は難しい。私はそう思う。
だが、これはスイスの高級時計や欧米のハイエンドオーディオにはしょっちゅう感じることである。ただ、こういうことが、スピーカーを使うハイエンドオーディオに比べれば、お遊び的な立ち位置だったはずのヘッドホンオーディオにおいても起こってきているということに少しばかり驚いているということだ。我々は、こういう価格が前例を重ねるごとに常識となっていくのを茫然と見守るしかないのだろう。この値段の付け方は良いモノを先駆けて作った者の権利なのだと思うしかない。

また、ドイツ人たちは日本で真っ先に発表したことから考えて555個のうち多くを日本で売りたい意向なのだろう。ドイツ製、限定という言葉に日本人は弱いから高くても売れるだろうか。確かにedition9が出ていた頃なら、高ければ高いほど、むしろ売れちゃうという妙な風潮も残っていたかもしれない。以前の銀座なんかでは、そういう風景を見た覚えもある。しかし日本人の金銭感覚は、特に若年層ではバブル崩壊以降変わりつつあるような気がする。それに50万円をパッと動かせるマニア達はヘッドホンからスピーカーに移行しつつあるのでは?これを、この価格で買う日本人のプロフィールが現実的には想像しにくい。
こう考えると、果たして、このビジネスが、どこまで日本で花開くのか、予断を許さぬ。その行く末は高みの見物ではなく、低いところから見上げさせて頂こう。

5回目の試聴を終えて、私は混み合う会場を後にした。
雨は上がり、空は黄金のような輝かしさを帯び始めていた。
それはedition5のサウンドに微かに感じた栄光の残滓のような光のイメージを想起させたが、
残念なことに、なんの決心もさせてくれなかった。
私は薄い光を反射させる雨上がりの緩い坂を一歩一歩、踏みしめて行った。
50万円でいったい何枚のLPが買えるのか、ゆっくりと計算しながら。
そして、耳に残るあの輝きに割り切れない、微妙な未練を残しながら。
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by pansakuu | 2013-10-27 14:36 | オーディオ機器