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MY Sonic Lab Signature Gold MCカートリッジの私的インプレッション:新しき王に

MY Sonic Lab Signature Gold MCカートリッジの私的インプレッション:新しき王に_e0267928_2217440.jpg


「・・・アナログオーディオの世界は魔法の世界なり。
レコード、カートリッジ、アーム、ターンテーブル、フォノ、
各々に理をもって説明できぬ神秘あり。
また、その取合わせこそ、さらなる不可思議を生む。
(中略)
いずれのカートリッジも役は同じなれども、
音色は似ても似つかず、一つとして同じものなし。
これなるキャラメル一粒ほどのカートリッジ。
我は心酔す、その雄渾なる金色の音に。
その刹那、刹那、言葉はすくみ、うつつは消え果て・・・」

佐野 長次郎 音楽書簡集(2013年発表分、私家版)より



Introduction

ずっと前から考えていた。
さしたる意味もなく、さしたる理由もなく。

果たして
小さなアイテムには短い文章で論評し、
大きな機械については長文で応える。
そういう評価の仕方、
文章の長さの決め方で書いたらどうなるだろうかと。

アナログオーディオでは、
とても小さなカートリッジ一つがシステム全体の音を支配してしまう現象が時に起こる。カートリッジというものは、大概、人差し指の先に乗っかるほどの小箱に過ぎない。針とコイル、そして磁石が組み合わせた微細なカラクリを内に潜ませる、この小さなパーツのどこにそんな力があるのか?これもオーディオの神秘のうちだろう。デジタルオーディオには、これに類するモノは存在しない。

このほど、自分のターンテーブルでMY Sonic Lab Signature Gold MCカートリッジを試聴する機会を得た。これは皆が知るべき驚異のカートである。未だ市場には安定供給されておらず、入手はおろか試聴も困難な状況であるから、これを聞いた方は少数であろう。しかし、アナログファンならずともこのカートの音は聞くべきと私は布令回り(ふれまわり)たい。彼はデジタルオーディオでも生演奏でも決して聞けない音を聞かせてくれる。それは、多かれ少なかれ、アナログオーディオの恒常的な宿命であり、使命でもあるのだが、彼は今までに聞いたどのカートリッジよりも力強く、そのミッションを果たす。


Exterior

カートリッジはその外見を愛でるものではないと思うが、CDのドライブメカのピックアップとは違って、外からよく見えるものだし、レコードに針を落とす時は注視するものだとは思うので、一応気を付けて見るようにしている。
また実際、カートリッジの外観は音と無関係ではないとも思う。
例えば同じ発電系を持つ、オルトフォンのMC-A90とXpressionは外観は似ても似つかない。MC-A90はランニングシャツを着た陸上のアスリートのようなデザインのカートであり、Xpressionはシックなコートを羽織った伊達男ような分厚いケースに包まれた形であるが、音もそのイメージどおりの違いを聞かせるものだと思う。

眼の前のSignature Goldは金色のカートリッジである。
光輝く金色のボディにジェラルミン製と思われる黒いベースを取り付けたものである。ボディのデザインは無駄な膨らみや、鋭角的なエッジのない、ごくごくオーソドックスなもののように見える。Eminentという従来のシリーズ名とは違う名前を敢えて与えた意味は外観からは不明である。
このカートリッジをアームに取り付け、首をかしげて、しげしげと眺めていると、なかなかに威厳があるし、遠くから見ても、ああアレを付けているなと分かるくらいにゴールドの輝きが目立つカートであることが判る。

私の手元には同社製のUltra Eminentもある。
こちらは銀色のカートリッジであるが、
Signature Goldと外観上は形のわずかな違いと色以外には
大きな差はないように見える。
また、中身も今まで10年もの間続けてきたEminentシリーズと
ガラリと違うというわけでもないようである。
一貫して採用するHi-BS、Hi-μiのコア材を少しばかり大型化し、
ダンパーを改良したものと言う。
外観は大きくは変わらず、内容もマイナーチェンジならば
似たような音に終始する可能性も考えられるのであるが、
ここでは、やはりEminentシリーズとは一味違う音、
少なくとも、かなり遠い延長上にある音が出ているように思う。
それにしても中身のそれだけの改良で、どうしてこれほど音が変わってしまうのか、
これもまたアナログオーディオの神秘的なところなのだろうか。


The sound 

このカートリッジの針を馴染みのレコードに落とし込み、その演奏を聴くと、
そこで出力されるエネルギ―というものは、過去に聞いたどのカートリッジよりも大きいように感じられる。
これは、かなり目立つ格差であり、他のカートリッジとは隔絶した力量と思う。これほどのパワーが有れば、この小さなカートリッジがオーディオシステム全体の音を制圧し把握しても可笑しくはない。

Signature Goldを使うと、音の立ち上がりが早くなるだけではなく、そこに音のボリュウムと力感がしっかりと付き従うようになる。雷神ソーが振り下ろすハンマーのような低域のビートは強靱かつ高解像度である。その音は決して演出過多の過剰な表現とは言えないのに、理不尽といいたくなるほど強烈な印象を私に焼き付けた。
さらに、印象的な中域の分厚さがこのカートリッジには有る。その中には、まろやかさ、コクの味わい、鋭角的な煌めき、刺激的な発色などいくつもの複雑な要素が見出せる。さらに、このカートリッジの音は各養素の表出が、はっきりとして分かりやすいのも特徴のように思う。高域は一聴して控えめな印象であったが、耳を刺すべきとき、音にエッジな主張があるときは容赦ないという一面もあるようだ。

ここでは音の輪郭はハッキリとしており、アナログの一つの魅力である膨らみや緩さといった方向に音が拡散し、不分明になったりしない。求心し凝縮し、やがて爆発する超新星の輝きのようにLPに刻まれた大音響を、そして、それに先立つ予感・事後の余韻を平然と表現する。

録音内容によっては、音のスケール感がかなり出てくることにも驚かされる。アナログオーディオは一般にチャンネルセパレーションが劣悪であるため、デジタルで言うサウンドステージのようなものが感じとりにくい側面があるが、このカートリッジに演らせると大波、小波が打ち寄せる海岸に立って悠々と水平線を見渡すが如き雄大さを感じる。これは言葉通りの視覚的な音の広がりのみではなく、ダイナミックレンジの聴感上での広さや音楽の抑揚表現の高低の落差の大きさがプラスされた特別な雄大さなのだ。

最近もデジタルオーディオはいろいろと聞いているので、こんな出音は、あのジャンルの機器には期待できないと分かってしまう。こうして頻繁に試聴してみても、今のところデジタルにはアナログオーディオほど多くの音のバリエーションがまだないように思う。私が本気でデジタルを再開するのは、まだ先のことになるだろうと、この音を聞いて再確認した次第。

それにしてもSignature Goldは豪華な黄金のサウンドの持ち主だ。彼のサウンドを聞いていると、黄金騎士の騎行を、その覇道の端で眺めるような勇ましいイメージが現出して圧倒される。これは、まつろわぬ者どもを打ちなびかせるような音の力を、多くのアナログシステムに与えることができる素晴らしいカートリッジである。

Signature Goldはアナログオーディオの新しき王の一人に相違ない。

ただし、アナログオーディオの美点というのは、こういう音の魅力に終始するものでは決してないことは断っておいていいだろう。EMTのカートリッジの持つ贅肉なく、禁欲的でありながら強力な音や、膨らみつつ、潤いつつ柔軟な表現で愉しませるオルトフォンSPUの音、上手く設計されたオーディオテクニカの空芯コイルの繊細な音、等々。それらの手触りは、それらのカートリッジを使うことでしか得られないものだ。
結局、アナログほどにオーディオの奥深さとバリエーションの豊かさを味わいやすいものを、今のところ私は知らないというのが正直なところだ。


Discussion and Summary
MY Sonic Lab Signature Gold MCカートリッジの私的インプレッション:新しき王に_e0267928_221858100.jpg

今年もヘラクレスオオカブトが私の部屋に来ている。
プラケース越しに眺める今回の個体は
例年よりもやや大きい15cmオーバーの堂々たるカブトである。
後食前であり、まだあまり動かないが、
この夏のリビングの王様は彼ということになる。

一方、オーディオに関して、
夏に先立ち、私がアナログの新たなる王として心に刻むのは
MY Sonic Lab Signature Goldということになりそうだ。
このようなサウンドはデジタルオーディオでも
生演奏でも聞けないだろうと
私が思い込んでいることは再度強調したい。
この事実がなければ、
私のオーディオの行く手もとうに塞がっていたはずなのである。

現在、様々なカートリッジを試聴している最中であるが、
どのカートリッジの音にも独自の個性があり、
音楽に合わせて活用すべき長所が見いだせることを知った。
とりあえず常用するカートは既に決めているが、
第二、第三のカートの座をめぐり当分迷いは続くだろう。
当分?いや、オーディオという悪趣味から足を洗うその日まで、
こういう迷いが続いて欲しいような気さえする。

ところで、
こうして少し短めに書いてみてから、再度問おう。
オーディオ機器のインプレッションを書くにあたって
小物については短い文章、大物については長文で、という試行には意味はあるのか?

珍しく悩まずに出てきた結論がここにある。
それは、この期に及んで、
そんな空虚な問いなど捨て置くべきということだ。
なにしろ、この梅雨時、
私はアナログシステムの選択に懊悩することに毎日毎日忙しい。
そして今、分かっていることは、
この調子では今年の夏はアナログ三昧の日々になるだろうということ。
もちろん、ヘラクレスオオカブトの世話も忘れてはならないのだが。

当然、私にはブログの文章の長短などについて
熟考する暇など有りはしない。
王様たちの熱い夏は、すぐ目の前である。

by pansakuu | 2013-07-05 22:17 | オーディオ機器