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by pansakuu
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3本のUSBケーブルの私的インプレッション; Jorma、Nordost、Cross point:デジタルファイルの新しい音質を聞く
音楽のない人生は誤謬である。
ニーチェ
オーディオのない人生も誤謬である(かもしれない)。
万策堂
Introduction:
こうしてオーディオをやっていると、
ふと、いま自分が聞いている、いまのサウンドを変えてみたくなる瞬間が必ずある。
例えばフルーティーなコーヒーばかり飲んでいると
ビタースイートな味わいが突然ほしくなる時があるのと同じように。
昨今はデジタルファイルを聞くことがオーディオの主流になってきている。
現代のオーディオファイルが選べるその他のソースとして、CD、レコード、テープ(オープンリール、カセット)などの実体メディアも勿論あるが、形のないデジタルファイルがメインになりつつあることは否めない。
ただデジタルファイルを開いて聞いていると、私はどうしようもなく物足りなさを感じることがある。それは今まで主流を占めていたCDやレコードから引き出されるサウンドが持っていた多様な個性が、デジタルファイルオーディオにはあまり存在しないような気がするからだ。
全く異なるメーカーのDACやプレーヤーを使えば、CDであれば歴然とした音の違いを感じられるところなのに、デジタルファイル再生だと、DACのメーカーが違っても、その差は小さいと感じることが多いのである。
これは多かれ少なかれPCやネットワークという世界共通の規格・OSや素子を使う部分の多い機材が、システムの重要な部分を占めているからではないかと推測するが、どうなのだろうか。
デジタルファイルオーディオの音の個性を変える。
しかも自分の望む方向に。
再生ソフトを変えたり、PCの設定、インターフェースや電源を変えたり、ハブをテレガトナーに取り換えてみたり、オーディオ用のLANケーブルを別な会社のものに変えたり、ハブの電源をグレードアップしてみたりといろいろとやってみる。ROONからTIDAL、TIDALからAMAZON HDなどと渡り歩いてもみる。何かしら変えるたび、たしかに音は変わってゆくのは知っている。
だが私にとっては大した変化の来ないことがほとんどである。
だいたい、私の意図は単純に音を多少良くしたいというのではない。
はっきりとしたグレードアップはもとより、音の傾向、音調、雰囲気、いわばサウンドの性格も変えたいのだ。
それもできれば最小の手間で。
小さな変化の累積で音を変えるのではなく、一つの部分を変えることで大きく音を改変したい。
微かに艶のある音の質感や低域の適度な量感があり、全体に上手くバランスのとれたこのサウンドは私のお気に入りであった。
だが、システムに組み込んでから5年以上が経ち、さすがに少し飽きもきていた。
私の経験では強いインパクトがあるサウンド、あるいは深く気に入っていた機材ほど、いったん飽きたら手放すのは素早くなりがちだ。それというのも、私の場合、そういう製品は個性が強いことが多いからである。どうしてもサウンドやルックス・使い勝手に押しつけがましいところがあり、その個性が自分の感覚にマッチしているうちは良いのだが、こっちの感性が変化して少しでも合わない部分が出てくると、すぐにもう別れが近くなる。もうこのサウンドは十分に堪能したから次へ行きたい。そうなるのが速い。
そこで問題は次が見つかるかどうかである。
ダウングレードなど問題外だし、同じグレードへの平行移動もどうかと思う。
やはり斜め上へ行きたい。グレードは上げて、音調も変える。
ではOrpheusのKholeの上をゆくUSBケーブルがあるとしたら・・・・。
この時はまだNordost Valhalla2 USB2.0しか私の頭には浮かばなかった。
このケーブルについては以前に書いているので繰り返すのもどうかと思うが、
ハイエンドオーディオにおけるUSBケーブルの在り方についてnordostの考え方を余すところなく示した製品だと思う。
USBケーブル一本でこれだけ音を変えられる。
サウンド全体をNordostの色に染めることができる。
使っていてなかなか感心するケーブルである。
こういうレベルの感動が得られるUSBケーブルは、
これまではこの製品しか私は知らなかった。
そんなふうに感心していた折、
JormaからReferenceと名付けられたUSBケーブルが発表された。
価格は私のNordost Valhalla2 USB2.0とほぼ同じであった。
写真を見るとどうやらこれは本気っぽい。
なかなか緻密なつくりのケーブルであるのがすぐ見て取れた。
例えばヨルマのケーブルはある程度高級モデルとなると、途中に紡錘型に削り出された木製のパーツが付き、それは上位モデルに近づくにつれメープル、オーク、ウォールナットと見かけ上ではより黒っぽくなる。Jorma USB referenceのそれはかなり黒っぽく見え、それが最上位モデルに準じたものであることを予感させた。
そこにグラリときたところに、さらなるアナウンスが重なった。
日本のアクセサリーメーカーCross Pointから、現行のUSBケーブルXP-DIC/USB ENのアップデートの話がきたのである。それは当時はまだ会社のカタログになかったCross point XP-DIC/USB EN SEというコードネームを持つ上位製品のアナウンスであった。
私はJorma USB referenceとCross point XP-DIC/USB EN SEを取り寄せて試聴することにした。最近導入したNordost Valhalla2 USB2.0や長期にわたり愛用してきたOrpheus Khole USBと比較したくなったのである。
実は,
少し前にSilver Runningやカルダス、SOtM、フルテック、など未試聴のUSBケーブルばかりを集めて改めて聞いてみたことがあった。その時には最新のUSBサウンドを集中的に試すことになったわけだが、残念ながらその時は、どのケーブルからも期待したほどの感動が得られなかった。
正直、いつも他人に薦めているSHIELDIO UA3と比べて圧倒的なアドバンテージなどは感じられなかったし、その時に使っていたOrpheus Khole USBと比べても、あの奥深い音質を捨ててまで導入するような気分にはなれず、ましてや次に導入しようとしていたNordost Valhalla2 USB2.0には、それらのケーブルはまるで及ばないと思われたため、早々に、しかし丁重に試聴機にはお帰りいただき、自腹を切ったものについては売却、そのあとはなにもなかったような顔をして、レポートも書かなかったという思い出がある。特にSilver Runningのケーブルなどは期待していたのだが、あれは私にとっては音がどうにも硬く一本調子で、ほぐれない印象であって改良の余地を感じた。
今回も同じことになるのではないかと危惧していたが、特にJormaのUSBケーブルは写真を見た時点で今までのUSBケーブルとは雰囲気が違うと感じたので、ひょっとすると、ひょっとするのではないかと逆に密かに期待もしていた。
今回はJorma USB referenceとCross point XP-DIC/USB EN SEそしてNordost Valhalla2 USB2.0の三つの軸を独立して簡単に描いたうえ、それらを比較検討するようなレポートを書こうと考えているが、こんな構成では、多少の混乱や不確かな表現、独善や偏見は避けようもなさそうだ。しかし、なにしろ面白い試聴だったのだから、これを書かない手はあるまい。
・Cross point XP-DIC/USB EN SEについて:
このケーブルの外観は非常に地味である。
ノーブランドのUSBコネクタに熱収縮チューブをかけたものだろうか。
金メッキ端子ではあるが、素人目には特別な「なにか」は感じない。
ケーブルの線体は非常にと言ってよいほど軽くしなやかである。
取り回しはかなり楽であるが、これが26万円のUSBケーブルと言われると拍子抜けする。はっきり言ってプアな外観で、例えばSilver RunningのUSBケーブルと比べたりすれば、かなり残念な見てくれである。
やはりこれは外見からは音質が全く想像のできないタイプのケーブルと言えるだろう。Cross pointの製品はどの製品もこのようなある種のスティルス性があると思う。他のハイエンドケーブルと混ぜて置いておくと、外見上では最も目立たない存在となるのだ。
しかし、このケーブルに用いられる技術は全く独自のものであり、他の会社ではマネはできない。例えば上位のケーブルと下位のケーブルの重さを測ると全く同じ場合がある。
しかし音の差は一聴して分かりやすいものであったりする。
私は口の堅い方でありたいので、秘密は明かせないが、聞けば技術的に驚くようなことをやっているとだけ述べておこう。
そして、
やはりというか、実際に結線して聞いてみると、
外見の素っ気なさを見事に裏切る、極めて充実したサウンドにビックリさせられる。
まずはしっかりと確定された音像と定位が土台にあり、
濃厚かつ緻密な音の質感とグラデーションが全体貫き支える柱となって、
堅固な建物のようなサウンドを形成している。
そして、そのような静的な構築を堅持しつつも、逆に動的な要素も強く現れ、躍動する音楽の波動が直で伝わる生々しさは愛(いと)おしいほどだ。
帯域バランスについては全体に公平に整っており、癖が少ない印象の音である。しかし、高域の自然な伸び方やくっきりと彫りの深い中域の満ち足りた安心感、低域の量感と解像度、そして音全体を浮揚させる膨大なエネルギーの噴出など、音楽の要所、要所では、際立った特徴を発揮する。
これは外見からは想像がつかない高性能ケーブルである。
このサウンドの根幹を一言で言い表すとしたら、中庸という言葉になるだろうか。確かに音のいかなる要素においても妙なアクセントをつけることはない。
ここでは色彩感は地味ではないが、鮮やかすぎない。どこかモノクロームの写真のような深い落ち着きがある。また、音に冴えはあっても鋭さはなく、音の触感も柔らかすぎず、硬すぎず、音のコントラストや温度感などにも強調を感じない。音の細部は余すところなく浮彫りされ克明であるが、そこに極度に関心を集中させるつもりはないらしい。
常に真ん中を取り、厳密に中心を狙っているサウンド。まるで厳密な計測のもとに音楽のど真ん中の重心の位置を弾き出し、そこを音場の中心に据えているようだ。
Cross pointの描く音の絵画にはその中心点を基準として、厳密な音の遠近法が用いられているように私には聞こえる。
そして全体的には音楽がスッと頭の中心に入ってきて、いつまでもそのまま過ごしたくなるようなサウンドにまとめられ、仕上がっている。それでいて、ただ聞き易い、聞き味の良さだけで終わらせず、時にはさりげなく高性能を発揮したり、時には強烈なパッションをほとばしらせながら、マニアを唸らせるのが凄いと思う。ことに音に込められた情熱を効率よく脳に伝えるという意味では非凡なところがあり、その部分がいつまでも印象に残る。
音質全体ではあくまで目立たないようにしているが、いつのまにか心を掴まれている渋い音という感じだろうか。
そういう意味ではスティルスな音の立ち方であると考えれば、外見とサウンドは存外一致しているとも言えそうだ。
このようなUSBケーブルの音質傾向は、新たな時代のサウンドの一端を担うものだと思う。
今までのハイエンドオーディオケーブルのサウンドがどこかに矛盾があって、それをCross pointの感性でもって丁寧に是正した結果生まれたサウンドのように思われるふしもある。
総じて私が今まで聞いたUSBケーブルの中で最も堅実な音調であることに加え、音の各要素も高いレベルでバランスのよく配合されたケーブルであり、基本的にはOrpheus Khole USB以上にお勧めしたいケーブルに仕上がっている。Orpheus Khole USBは、より明るく華やかな音であり、色鮮やかなサウンドであるが、Cross pointのこのUSBケーブルには基本性能で遅れを取る。Orpheusのケーブルは発売から時間が経ち、その間に技術の進歩があったと考えてもよい。
なお既存のSE表記なしの下位モデルCross point XP-DIC/USB EN も試聴している。こちらはSE付きよりも全体に穏やかでさらに地味だ。しかし他のメーカーのケーブルと比較すると音のバランスの良さや複雑なニュアンスの表現に長けているところなど、より上位にあると感じる場面が多かった。こちらはSEより安価であってコストパフォーマンスはより高いのかもしれない。私が買うならSEだが、無印でもOrpheus Khole USBと同等ぐらいの実力があると思うので、懐に余裕のない方にはこちらも推薦したい。
このUSBケーブルについては何度も試聴したうえ、以前にレポートも書いているし、自腹も切った。
実物を買ってみると、まあ本当にNordostの高級ケーブルといういでたちである。まずかなり立派のつくりの大きな木箱に入っているのが、それらしい。あとで紹介するJormaの製品を含めても、これほど豪華な箱に入ったUSBケーブルは他にあるまい。
箱からうやうやしく取り出した、白くしなやかな線体は、一目で完全にNordostのオリジナルとわかる特殊なつくりであり、見かけの質感の良さを抜きにしても、製造コストがかかっていることは疑いようがない。これだけ高価であることも音を聞くまえに納得できるのだ。
コネクターもオリジナルと思われる金属塊から削り出されたものであり、薄くコンパクトで曲線で構成されたもので、いかにも音が良さそうだ。
自分で買ってある程度長期にわたり聞き続けた感想は
若干以前のそれとは異なるものになっているかもしれない。
しかし、このNordost Valhalla2 USB2.0の作り出すサウンドは
このケーブルにしかない世界と思われることに変わりはない。
それはNordostの思い描くハイエンドオーディオの世界の具現化でもある。
あらゆるものをすり抜けてゆくような澄んで明るいビジュアルがイメージされるサウンド、いや、明るいというよりもまばゆいほどの光を放つとすべきか。
さらに、音の動きにおいて電撃的でありながら、あくまで滑らかさを失わないキレの良さ、極め付きのハイスピード感がある。また初めて聞く誰もが感じるであろう、驚くべき音数の多さ、音の色彩感の鮮やかさ、そしてUSBケーブルを替えたときの変化としては規格外の音場の拡張。これらを同時に手に入れるためにはこのケーブルを買うしかないと思われる。
それはちょうどロボットアニメに出て来る超兵器から閃光とともに発したビームが地表を撫でたあとに表れる、まばゆく光る新たな地平線のように、まっすぐでくっきりとしたサウンドである。また、それは味覚的に表現するなら強炭酸のように爽やかで刺激的な音だ。
それにしても、なんという音色の鮮やかさと純烈さであろう。
派手な音作りの音楽を聴くとめまいを起こしそうになるくらい、カラフルなイメージが脳裏に展開する。
音の粒立ちもめざましく、リバーブの行方が見えるような気がするほど視覚的なサウンドである。また音を俯瞰的に見ることにも意外に長けており、音楽の全体的な構造や次々に押し寄せる波動の大きさにも耳を奪われることが多い。
先ほどの、地に足をしっかりつけ、克明な陰影も持っているCrosspointのUSBのサウンドとはまるで対極にある華やかさ全開の派手なサウンドであり、こちらにも深く魅力される。
正直、よりキャッチーなサウンドとなるとNordostになるかもしれない。
こちらの方が良さが分かりやすいのだ。単純に言って、音が目立つ。ただし聞きこむとCross pointはNordostに必ず拮抗してくる。そのうえで価格を考えるとCross pointはより優れているとも言える。
・Jorma USB referenceについて:
書き始めて早々、結論じみているが、これこそは本当に新しい、未来の音質だと思う。
ここまで紹介してきた二本のケーブルについてはどちらも新しい要素を多分に含んでいた。
しかし、それにも増してJormaのUSBケーブルを通して出てくるサウンドが真に未知のものを含んでおり、より新しさを強く感じた。
これまでのUSBケーブルを通した音とは根本的に違うなにかがある。
USBケーブルを変えただけで、このような音が出てきた経験が皆無だった。
強いて言えば、この種の音はこれよりはるかに高価なケーブル、たとえばJormaのStatementシリーズ(インターコネクトが1mペア100万円を超えるケーブルだ)などから出て来るものと信じていたから、1mの価格がたった45万というのもコストパフォーマンスとして良いなと思えた。
そして、ここではUSBケーブルがデジタルファイル再生システムの音作りに占めるウエイトの高さに対する認識を変える必要があるとも感じた。
このサウンドを数分くらい黙って聞いてたあと、私から初めて出た独り言は
「ヨルマはこのケーブルに何をした?」という小さな叫び似たものだった。
いったいUSBケーブルに何をしたらこんな音質になるのだろう?
不思議と興奮で私の心はいっぱいになった。
冷静さを失わせるサウンド、それは外観と音質のギャップから生まれることが多いが、今回のJorma USB referenceはそれほど外観がシンプルなわけではない。むしろ率直に言って音が良さそうな、重厚でややゴージャスなルックスである。USBケーブルというのにこの高級感。風格さえ漂うのは、なんとしたことだろう。しなやかだがUSBケーブルのそれとしては若干太く、そして若干重く、高密度なものと思われるケーブルの線体。コネクターも既製品ではなく、金属製のカスタムメイドパーツのようだが、黒いチューブに包まれているので詳細は不明だ。そしてなんといっても、途中についている黒っぽい樹脂製の紡錘型の謎の箱に目が行く。これもケーブルと同じく、ある程度重さがある。そして中央についているのではなく、片側に寄せているのも何等かの音質的配慮かもしれない。
いつも不思議なのだが、この中にはなにが入っているのか。あるいはなにも入っていないのか。これは制振のためについていると言われているのだが、なにかそれだけでは済まされないような気がする。結局、なんの意味があるのか、今も分からないままだ。
そうえば、このクラスのヨルマのケーブルではこの部分は大概はなんらかの銘木を使っているものだが、今回はなぜか樹脂である。これもなにを意味しているのだろうか。そもそもこれはどういう樹脂なのだろうか。材質の詳細も分からずじまいである。とにかくこの部分はいつも謎だ。
そういう感じで、なかなか悪くない外観ではあったのだが、
外見から来る予想をはるかに上回る音の変化は私を打ちのめした。
まずこのケーブルにデジタル信号を通して聞くと、音響空間を音がみっしりと埋め尽くしているように聞こえる。
すなわち、静まり返った音場の中にあっても、在り来たりの静寂のようなものがない。
我々がこれまで静寂と見なし、無音の空間として認識していた音場の大半に微細な音の欠片が無数に漂い、一つの雰囲気を醸し出していたことに突如として気づかされる。
もちろんそれは機材に起因するノイズではなく、録音されたときから存在する微細な音であり、本来は無意識に聞いている小さな音なのだが、それらが存在感を与えられ微かに輝いている。静寂とは微視的にみれば、非常に小さな音の波動の集合体であろうことは予想していたが、そこをUSBケーブルを替えることによって、気づかされるとは予想していなかった。
音楽が始まる寸前、その一瞬の演奏の気配を捉えられるかどうかということ。
手練れのオーディオファイルの間では、そのことが、試聴している機材が或るレベル以上のオーディオ機器かどうかを知るための境界線になるという見方があるが、このケーブルはその部分を再現する能力が実に高い。演者が呼吸を合わせて演奏に入る様子が手に取れる。その緊迫感が胸に迫る。SNが高い?それだけではなく、音に今までにない存在感が与えられていることが重要だろう。
かくして音楽が始まる。なんと芳醇な音か。聞きなれた音楽がこんなに豊かに聞こえていいのだろうか。この音楽の中には、多くの音が入っていたことは既に知っていたが、これほどまでに全ての音、余すところなく存在感が与えられたことは今までなかった。どんな小さな音も逃さないというだけではない。見出された、どんなに大きな音もどんなに小さな音もしかるべき価値と、あるべき場所を正確に与えられているように聞こえる。
目を閉じると、
それぞれの音に、大きなあるいは微かな重力が与えられ、それらが互いに、引き合いながら連鎖反応しているように聞こえるときがある。こうなると、ばらばらの点と点だった音が互いにつながり、複雑に絡み合いながら、波動の中を急速に流れていくように感じられるようになる。これがJormaの見せる音楽の新しい姿なのだろうか。
音数がNordost Valhalla2以上に多いと同時に、音色の種類や音の質感のバリエーションが他のハイエンドケーブルより明らかに豊富に感じる。音の硬さや柔らかさに様々な種類と度合いがあり、それらが一挙に表出してくるので、私の耳ではにわかにはフォローしきれない場面が多くなる。
こんなに音が入っていたのか、こんなに複雑な音色、音触だったか。
戸惑ったり感心したりしているうちに時がどんどん過ぎてゆく。
これは別な言い方をするなら、音色や音の質感、明暗の階調の圧倒的な豊かさのなせる技だとも言えるだろう。
写真でいえばニコンやソニー、キャノンの35mmフルサイズ機で撮影した画像とFujiのGFX100Sなど中判のミラーレスカメラで撮影した画像の差のようだ。フォーマットが違う。音の器の大きさが違う。5000万画素のセンサーを使うカメラと一億2000万画素のセンサーを採用したカメラの違いと言ったらいいのだろうか。
音の階調がここまで豊かに感じられると、今までのサウンドはどうも人工的で、作られたサウンドだったように思えるから不思議である。
個人的にはこの凄まじくリッチな音の階調感がこのケーブルの最大の特徴のように思われる。
各帯域の質感やバランスも十全でありつつ、今までにないさらなる高みを目指しているように聞こえる。ここで紹介してきたケーブルはその部分で優れた製品が多いのだが、それらすらまだ完璧ではなかったと反省させられる音かもしれない。強いていえば、今までのハイエンドケーブルのサウンドには1%ぐらいの危うさがあった。音の安定感やスケール感という意味でもどこか危ういバランスを上手く保ちながら、各要素が補い合い、トータルでは美しいサウンドを巧妙に演出できていた。しかしこのJormaのUSBケーブルでは音の器が根本的に大きく、結果的に音の安定度やスケール感ではっきりと差が生じており、危うさが全くない。これは残りの1%を埋めるためにかなり多くの努力を費やした成果に違いない。
具体的には、これは導体の材質が他とかなり違うことがあるのだろう。銅、銀、プラチナ、金、亜鉛、鈴、ニッケル、マグネシウム、モリブデン、パラジウム、あるいはそれらを意図的に掛け合わせた様々な合金たち。様々な材質がオーディオケーブルを構成する要素として、これまで用いられてきたが、Jormaは求める最適解をやっと見つけたようだ。
ひとことで表現するとDOPEなサウンドを生み出す初のUSBケーブルである。
DOPEを日本語に訳すと「ヤバい」となる。
いろいろな種類のハイエンドケーブルを聴いてきて、このケーブルと同じくらいのヤバさを感じたものもいくつかある。
だがデジタルファイル再生にこれほど根本的な驚きを持ち込めた例はない。
このケーブルは近いうちに買うだろう。
ここに独善的にいろいろと書いたものの、自分でもまだこのサウンドを把握しきれていないのだ。
もっとこのサウンドを知りたい。
一週間ぐらいの試聴ではとても探り切れない印象が濃いケーブルだ。
・各ケーブルの段階的な比較について:
これまで、万人に薦められるオーディオ用USBケーブルとして、私は常にSHIELDIO UA3を推してきた。このケーブルを通して聞かれるサウンドはUSBを用いたデジタルファイル再生の第一段階であると私は位置付けていた。
そして、その上のレベルの音質を求める人には第二段階としてOrpheus Khole USBを推し、さらに上を目指したいという方にはNordost Valhalla2 USB2.0を第三の段階として薦めてきた。
しかし今回の比較試聴で、それらの推しを変えざるをえないことが分かった。
USBケーブルに新しいタイプの音質をもつものが現れたからだ。
それは、より個性的あるいは自己主張のあるサウンドをデジタルファイル再生に持ち込む、一群の未来的なUSBケーブルである。
第一段階のSHIELDIO UA3はそのままだが、第二段階としてはOrpheus Khole USBだけではなくCross point XP-DIC/USBも強く推すべきだろう。Cross pointのサウンドはもっと多くの人々に知られるべきものであり、特にこのケーブルに関しては、デジタルファイル再生が増えている現代において、多くのオーディオ人に受け入れやすいものでもあろう。同価格帯で比較すると、明るさや華やかさを求めるならOrpheusのUSBケーブル、精彩かつ克明なモノクロの深みと渋みを感じる中庸のサウンドを求めるならばCross point XP-DIC/USBとなる。
さらに、その上位のスペシャルエディション XP-DIC/USB EN SEに関しては明らかにOrpheusより上で、Nordost Valhalla2 USB2.0とほぼ同レベルにあると思う。このUSBケーブルについては、まだCrosspointのカタログに掲載されたばかり、予定価格は26万ほどと高価でもあるが、その対価として十分過ぎるほどの感銘を受けた。しかもValhalla2 USB2.0が45万と考えると、かなりXP-DIC/USB EN SEのコスパは高い。
そういうわけで、さらなる第三段階、すなわち誰もが至る必要はないと思われるデジタルファイル再生の暫定的な頂点に至るケーブルとしてNordost Valhalla2 USB2.0をずっと推してきたが、この位置づけも変わる。つまりXP-DIC/USB EN SEをNordost Valhalla2 USB2.0と同等以上の地位につかせることにする。
そして、そのさらに上をゆく第四段階のサウンド、新しい音質を実現するケーブルとしてJorma USB referenceを推薦したい。
Jorma USB referenceは、たとえようのないほどの音色の階調の豊かさ、ごく自然な音場の広がりと奥行きの深さ、空間を埋め尽くすような音数の多さなど、今までのUSBケーブルのサウンドになかった多くの美点を有しており、現時点でオーディオ用USBケーブルの頂点、集大成と考えられる。まず価格を聞いて(感覚的には)かなり高価と思われる製品ながら、音を聞いたうえで他社製品と比較検討すれば、その価格がコケおどしでなく、むしろコスパが高いとさえ思えるような超実力派ケーブルが、久しぶりに出てきた感がある。
オーディオケーブルの中でUSBケーブルというジャンルは明らかに新参で、ここでは様々な試行錯誤が続いていたが、ようやく決定版と言える製品が出てきた。
改めてNordost Valhalla2 USB2.0そしてJorma USB referenceについて思い巡らせてみる。これらほぼ同等の価格帯にある、二本のUSBケーブルが発動させる個性的な世界はそれを一度でも受け入れた者にとっては他では代えがたい魅力的なものである。
そして、そこにCross point XP-DIC/USB EN SEが、他の二者に比べてやや個性を控えめにしながら、自己主張して割り込んできた構図となることに気づく。ここでは個性が控えめというのも、また一つの個性という考え方もできるとすれば、やはりこれは自己主張していると思われるのだ。
単純に公平で堅実、シンプルに色付けの少なさを競う立場を超えて、その先の世界、ハイエンドオーディオの密かな、そして最終的な醍醐味へとデジタルファイルオーディオが足を踏み入れるには、これらのケーブルのうちどれかが必要となるだろう。
それにしても、Jormaのケーブルについて広い意味でコストパフォーマンスが、かなり高いと言えることは大きな驚きである。サウンドが新しいという意味だけで、新しい音質と呼ぶのではなく、常識外れの価格なのにコスパが高いと意味でも新しく、未来的と言えるのだ。先述したように、このケーブルをシステムに入れて出てきた音は、以前このメーカーのStatement XLRケーブルをシステムに入れて出てきた音とよく似ていた。このStatement XLRケーブルは1mペアで120万円という超がつくハイエンドケーブルであり、メーカー側では現在製造できる究極のケーブルと謳っている。
私は以前にこのインターコネクトケーブルを試聴してみて、なるほどその通りとは思ったものの、価格の絶対値があまりにも高価であるうえ、この価格帯にあるケーブルとして当然実現しているべき音質というイメージもあって、驚きや感動はほとんどなかった。(だからこの試聴のレポートは書いていない。)
一方、Jorma USB referenceはその半額以下でシステム全体の音をかなり近いところまで底上げできる。こちらは驚きでしかない。さらに、こちらの方が、その凄さが分かりやすいようにも感じた。インターコネクトケーブルだとその威力の及ぶ範囲が下流の機器に限定されるからだろうか。USBケーブルは信号そのものが通るケーブルとしては最上流にあるものだからより威力を実感しやすいのかもしれない。
とにかく素晴らしいUSBケーブルだ。
Summary:
最近出てきたスーパーハイエンドオーディオ、例えばBoulder3000シリーズやMSBのSelect DAC、CHPのL10などの現代のオーディオの頂点と思われる機器に思いをいたすとき、私はオーディオの終末を思う。
これ以上のサウンドは想像できないし、ほぼ必要でない。
しかも、そのようなサウンドを世の中にほとんどの人が顧みなくなっている。
わかる人にはわかる、に落ち着くようなモノは現代においては結局不要不急なのだ。
しかもこの価格だ。事情をある程度知っている者にすら
昨今のハイエンドオーディオは詐欺にしか見えない。
手段を択ばず、カネに糸目をつけず、究極の音質を突き詰めすぎた結果、
音質はほとんどの人間が必要としないレベルにまで高められ、
結果として必然、大半のオーディオファイルを含む、ほとんどの人間に必要とされなくなったということだ。
かくして我々は一番大事にしていたはずのオーディオそのものを失いつつある。
オーディオはどこから来て、どこへゆくのか。
そしてオーディオとはヒトにとって、いったい如何なる存在なのか。
これらの問いはいまも消えずに私の頭上に残って、月のように静かに輝いているが、このままではその最終的な答えは得られそうにもない。
その答が見つかりそうになるたび、
オーディオは予想外に変化して、私の視点をずらす。
こうなってしまった今でも、
ハイエンドオーディオの試行錯誤は続いているからだ。
だから答えに向かうアプローチは次々に変わってしまい、
結果として永遠にその答えは得られないままだろう。
あるいは、答えが得られるまえに、ハイエンドオーディオという趣味は、
自分で自分の首を絞めた結果として実質、消滅してしまおうとしている、とも言える。
しかし、そのような無意味にも思える試行錯誤の中に、
より高度なレベルでのコストパフォーマンスという概念を加えたらどうなるのか?
このことはオーディオの未来を占うヒントのように私には思われる。
常識からすれば十分に高価ではあるが、今までにない音のアドバンテージを持ち、しかもそれまでの最上位にあった機器と比べて安価である機材。
なにしろ私のような感覚が狂ったオーディオファイルでさえ辟易するほどの高額機器、オーディオファイルである前にまずは富豪であれとでも言わんばかりの、ベラボーに高価格なハイエンドオーディオが増えてしまったからこそ、
こんな風にニッチな機材の登場は望まれるし、
それは必然的に起こってくるべき未来の事象でもあろう。
このような新しい音質を持つ機材がハイエンドオーディオの新たな波として押し寄せ、滅びかけたオーディオ界を久しぶりに奮い立たせてくれるのではないかと、密やかに希求するのは私だけだろうか。
どうやら、
飽くことなく、良心をもって求め続けさえすれば、
どんな時であっても未来への希望は常にあり、尽きることはないらしい。
今回の試聴の深い成果は、
そんな当たり前だが、
見失いがちなことを再確認したところにもあるような気がしてならない。