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ハイエンドオーディオの行方:巨艦の残影、コロナショック、そして持続する世界

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私の道は、私がひらく

by TBC


これはあくまで私の印象でしかないが、

去年、2019年11月の東京インターナショナルオーディオショウは天候が悪かったせいなのか、今まで参加した中では人出が最も少なかったような気がする。このショウには計27回ほど参加しているはずだが、少なくとも私の記憶では一番に人が少ない年のように思われた。

あの初日、雨がそぼ降る銀座の夕方の街を歩き、国際フォーラムに到着すると、中は暗く、真夜中のようだったのを覚えている。

フォーラムのガラス棟は太陽光を取り入れて照明する仕組みであり、天井自体には照明が少なく、天気が悪い日の夕方はそんな様子になりやすい。

会場入口の物販のエリアはまるで夜市のようなありさまで、どうも寂しい気がした。

あの日のショウは、立ち見のブースもある一方で、人のいないブースとなると、本当に誰もいなくて、客がほぼゼロというところもいくつも見られた。

天気が悪かったせいだろうか。それにしても人が少なかった。

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私個人は、オーディオという趣味は着実に廃れてきていると、ここでも感じた。そして、ハイエンドオーディオに強く関心をもっている人が、これだけ減っていることを知りながら、メジャーなメーカーたちがますます、顧客を富裕層に限るような製品開発に梶を切るように見えたのも、心配だった。

あの時のショウの最大というか唯一の目玉であったAirforce Zeroという巨大なアナログターンテーブルは、その状況を強がって覆い隠そうとするかのように、その設計規模と価格で他を圧倒していた。



唐突だが、このAirforce Zeroの存在は太平洋戦争における戦艦大和のあり方に似ている部分があると私個人はその時、考えていた。

大和は旧日本帝国海軍の力と威信の象徴として建造された史上最大級の戦艦であるが、呉の海軍工廠で進水してから鹿児島の坊岬沖で撃沈されるまで、さしたる働きもできず、その46センチ主砲は敵に向かって一度も 火を噴くことはなかった。その当時すでにそのような巨大な砲艦は戦果を挙げられず、時代遅れとなっていたからだ。大和が進水した当時、すでに海の戦争の趨勢は砲艦どうしの大砲の撃ち合いではなく、航空母艦に搭載した航空機による戦闘に移行しつつあった。

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大和が置かれていた状況と現代のオーディオの状況に相似を見出せないと誰かが言うかもしれない。アナログは現代においてもまだ死んでいないどころか、ハイエンドオーディオ界ではまだ活気のある分野ではないかと。

しかし、現代のアナログオーディオで、このような巨艦、巨大で高価な機材を多くのオーディオファイルが求めているだろうか?

恐らく、そうではない。

一般的には、もっと安価でコンパクトでありながら優れた音質を有する機材が求められているのが現状だと思う。

では、このAirforce Zeroは誰のため、何のために造られたのか。

これは一握りの富豪なオーディオファイルに、オーディオメーカーを生きながらえさせるカネを払ってもらうために作られたということがまず言える。

だがそれは表向きの事情である。

深い見方をすれば、あれはハイエンドオーディオの精神的な柱である、技術の進歩につれて、音質は上限なく向上してゆくという神話が、現代においても真実でありつづけているということ、その証(あかし)を立てるためにつくり出されたのである。

Airforce Zeroのサウンドを驚異と嫉妬の混じった感情で聞きながら、私は、この開発が成功したことを確信した。それほど感動的な音ではあったのだ。

しかし、同時に私は皮肉にもこの神話への信仰が生み出す、果てしない物量投入に限界がきていることもAirforce Zeroを眺め、その音を聞くことで感じとった。もうこれ以上大きな機材をリスニングルームに置くことはできないだろう。スマートでないどころか、現代ではネタとして笑い飛ばされるレベルに、こいつは巨大化している。こういうモノを格好良いと思う若者はもういない。

この巨体、サイズとしても価格としても肥大しきった姿から我々は旧来のハイエンドオーディオの行き詰まりを知るべきだ。

文句なしにその音は素晴らしい。

だが、こういうコンセプトの機材から出る音が世界のそこここに行き渡り、

会場に居ない多くの人々にも、

その感動がシェアされるということはない。

恐らくは、どこかの富豪の邸宅の奥にある防音室に据え付けられたあとは、

頻繁に稼働することもなく、

再び売りに出されるまでの時間の大半を静かに眠って過ごすのが関の山だろう。

(私の知るかぎり富豪は意外と忙しい人が多いのだ)

これは帝国海軍の建造した大和が、巨艦大砲主義の権化であったように、過去の重厚長大、物量投入型のハイエンドオーディオの象徴、記念碑としてだけ残るものかもしれない。


結局はハイエンドオーディオも資本主義の走狗のうちの一匹でしかないという側面がある。

これは資本主義を回す原動力、つまり簡単に言えばモノを消費者に買わせて、業者を儲けさせ、この世のカネを動かす力のひとつとして捉えられる。

富裕層にこれを売れば、その意味で目的はひとつ、達成される。

しかし、ハイエンドオーディオは

音楽と音を愛する多くの普通の人々への贈り物でもあったはずだ。

だが少なくとも、今のハイエンドオーディオの先端部の製品の多くは先端技術と資本主義のキメラというべき怪物的なイメージから抜け出せず、一般のオーディオファイルからは遠い存在となりつつある。

そのサウンドはオーディオショウや評論家の集まり、一部の販売店の試聴室、そして少数の富豪のリスニングルームでしか聞けない幻の音に成り果てている。昔からハイエンドオーディオにはそういう部分が一切なかったとは言わぬ。しかし近頃、そういうサウンドがあまりにも多すぎた。


Airforce Zeroの音は素晴らしく、その点でオーディオの進化を体現しているようにも見えるが、もしかするとそれは、うわべだけかもしれない。

少なくとも私にとって、オーディオの本当の意味での進化は、まだ起こっていない。ハイエンドオーディオのコンセプトの多くは、未だ基本的には物量投入主義の時代の古い考えに停滞したままに思えるからだ。

もっと常識的な大きさで、しかももっと安価な機材から、

こういう素晴らしい音が聞こえて、はじめてオーディオ技術が本当に進歩したと言いうる。

まるで大和の主砲が敵に向かって一度も砲弾を打ち出さなかったのと同じく、

この旧態依然としたハイエンドオーディオの状況の打破に、

この方向性での機材の企画・開発は、結局あまり役に立っていないようだ。

(フラッグシップ機の技術が下位モデルに応用され、音質向上に役立つとメーカーは言うが、実際のオーディオでは技術の流れが逆、すなわち下位モデルの技術をさらに高めて、高価なモデルの音質を上げているというケースが多いように見える。)

つまり、ハイエンドオーディオに漠然と存在する、価格による格付け・階級を打破する、すなわち安価な製品の音質が、それよりずっと高価な製品の音を凌駕するようなことが起こるべきなのである。ここでは最も高価な製品が最も音が良いというテーゼを打ち破る必要があるのだが、メーカーも評論家も消費者も高いモノはいいものだという習慣に慣れきって、下克上をあきらめている。


そして2020年春、コロナウイルスが地球上に音もなく広がり始め、

状況は大きく変転した。


まず世界中でオーディオショウは中止となり、

(2020年の東京インターナショナルオーディオショウは果たして開けるのか?)

その次に多くのオーディオメーカーで多かれ少なかれ開発や生産が停滞しはじめた。

場合によっては事業は休止となり、さらに、その中のいくつかは休止で済まず、廃業する寸前だと聞く。実際、私は日本のあるオーディオメーカーが解散する方向で動いているという話を耳にしている。また、海外メーカーについても、チラホラそういう噂を聞いている。もともと後継者のいない小規模メーカーなどは、いずれは事業を終了するつもりであったが、これをきっかけにそれを前倒しするところもありそうだ。


このような動きは、現時点では廃業の危機にないメーカーにも影響がある。

例えばアナログプレーヤーについてはアームとターンテーブルが別々のメーカーであることも多く、どちらが倒産しても完成しなくなる。

SME(ここはコロナショック前から既に供給がおかしかった)やJELCOのアームに関してはこれからの新品入手は難しいだろうという噂がある。この二つのメーカーのアームを搭載するターンテーブルはこの先、別なメーカーを探さねばなるまい。

アナログプレーヤーに限らず、ハイエンドオーディオ機材は多くの特殊機器メーカーの作る製品・部品の集合体であり、それらの部品のどれひとつが欠けても完結しない。

これから先、上記の理由で多くの機材が代替機・新型機にモデルチェンジとなるだけならよいが、下手をすればメーカー自体が完成した機材を生産できなくなり、結局は廃業となる危険性がある。


もちろんハイエンドオーディオを消費する側のマインドも大きな影響を受けている。自分の今の身分、やっている商売の先行き、世界全体の経済の前方視界が不透明であるため、差し当たり不要不急であるオーディオ機器の購入を控えるオーディオファイルが増えている。そもそも試聴会など開ける状況にないし、個人的な試聴のため公共交通機関を使って、販売店に行くこと自体さえ憚られる状況である。聞いてもいない機材に大金をはたくのは難しい。この理由かもらハイエンドオーディオの購買意欲は低下しているだろう。

たとえCOVID19の感染がワクチンや治療薬の開発により収まってきても、経済への影響は尾を引くことだろう。

こうしてオーディオへの消費の低迷は長期にわたるものと推測される。

以前にも述べたが、消費マインドの低下から全体に製品の販売価格は下がるという予測もある。価格が下がっても音質が良ければ問題ないのだが、この先、メーカーが機器開発に投下できる資金も減るだろうから、オーディオの至上命題である音質の向上が頭打ちとなることもありうる。そうなっては価格が下がっても意味はない。


このような状況であるから、当然オーディオを売る側、代理店や販売店の業績の悪化も始まっているようだ。

ある販売店の方から政府から事業継続の借り入れを急いでいるという話を聞いた。廃業までは視野に入れていないと言うが、果たしてどうなのか。

さらに、ここのところ訳知りの読者から愛想をつかされつつあるオーディオ誌も危機に瀕するのではないか。以前から下降気味だった雑誌の売り上げが、コロナショックに関連した本屋の休業・廃業によりさらに下がることも予想されるが、もっと深刻と思われるのは企業の広告費の支出減による広告収入落ち込みの可能性だろう。この業界では広告収入を収益の柱とする雑誌がほとんどであるから、ここでのダメージは大きい。あまり考えたくないがSS誌が休刊になったりしたら、我々はどこからハイレベルなオーディオ情報を得たらよいのか。他誌では取り上げないような特殊な機材も彼らは取り上げていたという事情もある。今でも一応は日本のオーディオジャーナリズムのリーダーであり、年4回発行されるハイエンドオーディオのカタログとしても意味があり、なくなって欲しくない雑誌だが・・・・。


こうしておそるおそる見渡してみると、

コロナショックが、もともと下降線をたどっていたハイエンドオーディオの世界に決定的な留めの一撃を食らわせる確率は決して低くないようだ。

この業界でメジャーなメーカー、代理店、雑誌のいくつかが消えるかもしれない。もちろん、早期に事態が終息し、反動で人々が開放的になって、急速に消費が回復する可能性がないわけではないが、それは望み薄である。

この苦しい時期をオーディオメーカー、販売店はどんな製品を売ってしのぐべきか。その答えが集約されたような製品がここにある。

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これは英国のケーブルメーカーCHORD Campanyから発売されているGroundARAYという製品である。

オーディオ機器というものには大概その後ろ側の面になにかを差し込む穴があいている。

ここで私はアナログ入出力のためのXLR、RCAコネクターを差し込む穴、あるいはデジタル入出力のためのBNC, AES/EBU、USB, LANの端子を接続する穴のことを言っているのである。

Ground ARAYはこれらの穴に差し込むだけでグランド側から高周波ノイズをポンプのように吸い上げると謳(うた)っている。

このGround ARAYは国内で既に100本以上は売れており、さらに売れる気配を見せている、最近では数少ない、ハイエンドオーディオ関係のヒット商品なのである。

このGroundARAYの値段は88000円ほど。安くはないが、10万あればおつりが来る。そして、それなりのオーディオシステムを持っているなら使いどころがないという人はほぼ居ないだろうという、普遍的な使いやすさのあるオーディオアクセサリーだ。私は今回RCA, そしてBNC, LANのGroundARAYを借り、自分のシステムで試聴してみた。

まずは借りたのである。

このGroundARAYのいいところの一つは、誰でも、どれでも代理店様や販売店様から借りて試聴できることだ。いくらお金が10万円もらえるからと言って、こういう動作原理も不明な得体のしれないアクセサリーに、いきなり88000円を払うオーディオファイルは少ない。

お金持ちであればあるほど、お金は惜しむものだ。

貧乏人は、なおさらだろう。

ハイエンドオーディオがこの先も生き残りたいなら、

このような機材の自宅試聴をもっと拡充することで、

オーディオ機器へのアクセスを容易にしなくてはなるまい。

このアクセシビリティの向上がこの分野ではなかなか進まないのは問題だ。

これまで一部のハイエンドオーディオ店に見られた習慣、すなわち買うか買わないか定かでない、初めての客・一見の客には高価な機材は借さない、下手すると聞かせないというような態度ではビジネスチャンスは拾えないだろう。


これは実物を手にしてみると銀色に輝く金属の短い筒のようなものだ。高級感はそこそこある。銀色の筒の中には回路が入っているが内容は非公表。その片方の端に種々の端子がついていて、アンプやプレーヤーのリアパネルの端子に挿せるようになっている。XLR(オス、メス)、RCA(オス、メス)、BNC、USB、LAN(RJ-45)、HDMIのどれかから自分のシステムの空き端子に合わせてチョイスする。

本体の重さは60gと軽く、端子に負担はかからず、また細いのでよほど端子が混んでいないかぎり、とりあえず挿すことはできる。発熱もしないので発火などの心配も皆無。ただリアパネルのうしろに13~15cmくらいの空間は必要である。金属の筒の端から短いケーブルを延ばし、その先にある端子を接続する設計にすれば、機材の後ろの空間はあけなくてもよいのだが、あえてそうしなかったのは音質のためだという。ケーブルを介さず、なるべくダイレクトに接続することで、目指す音質に到達できるという。

実際にセッテイングしてみると、機材のうしろ側は見えづらいので挿し難いが、まあなんとかなった。

どの端子を挿してもサクッと入って揺らぎはほぼない。


Ground ARAYを挿すと、これは音が変わった。


まず、dcs Bartok+のRCAアナログ出力端子に挿したのだが、

今回試した中では、これが一番はっきりと効きが分かった。

全域で音が澄む。

音の細部が浮き彫りとなると同時に

スッキリとサウンドステージの見通しも上がってくる。

それでいて音の密度は薄まらず、むしろやや厚みの増した印象である。

高周波ノイズを取るというような、ただ漠然と音を掃除したという印象よりも、ノイズを積極的に探し出して、掃除機で吸い込んだうえ、

さらに音そのものをバフで磨き込んだようなサウンドとなる。

音が明るい光沢をもって眼前に現れるのだ。

これはCHORDのハイエンドケーブルが持つ音の傾向に類似している。

この機材はCHORD以外のケーブルを使っている人々が比較的気軽にCHORDのサウンドに接することができるチャンスともなろう。

この機材は音をすみずみまで清掃し、たえず清潔に保ってくれるが、

それに付随する副作用がほとんど感じられないのも特徴である。

帯域バランスに変化を生じたり、音の質感に微妙な違和感が出たり、音の立ち上がり・立ち下りのスピードが変わったりすることはない。

そして、dcs Bartok+のLAN端子あるいはBNCデジタル入力端子、CDトランスポートCODAのBNCデジタル出力端子に挿してもほぼ同じ変化になる。

ただ私のところではアナログ出力に挿す方が、デジタル系に挿すよりも効果が大きいようだ。スッキリ度がより高かった。

また二箇所、三か所同時に挿してみても効果はあからさまに大きくなるわけでもない。一本で十分のようだ。


もう一つ、最近試聴したもので、全く同じ使い方をするのだが、音質的に効果が高かった機材がある。

Acoustic Reviveのリアリティエンハンサーという製品である。

これは機材の入力端子あるいは出力端子に挿す、ショートピンあるいはターミネーターと呼ばれ、随分前から様々なメーカーから出ていたアクセサリーのスペシャル版と考えればよい。他の製品との違いとしては、いままであったショートピンやターミネーターよりも材質や造りが格段に高級であること。これは同じAcoustic reviveで作っていたものと比べても、同社比でかなり高級・重厚な造りである。この製品の中身は例によってブラックボックスであるが、見たところでは中にCHORDのGroundARAYのような回路が封入されていることはなさそうだ。

これについてはいくつかのオーディオ関係のブログで詳しく取り上げていて、私もそれらとほぼ同様の感想をもっているので、今回の試聴の内容について詳細に述べないが、借りたRES-RCA, RES-XLR、RET-RCA、RET-XLRについては、音のエッジが鮮明になり、定位が一段と明瞭になるという、はっきりしたメリットがあった。Ground ARAYのごとき、ノイズが減ったようなスッキリ感は特にないが、音の質感や色彩感が、挿す前より明らかに分かりやすくなる。音が全体に音がやや硬くなるような気もするが、それ以外に副作用はない。なお、私のところではRCA用よりXLR用のものの方が効果が高いと思われた。もっともどちらが良いかはシステムにより異なるものだろう。とにかく試してみるのがいい。

今まで使ったショートピンあるいはターミネーターと言われるものの中では最も効果が高い。ただし値段も高い。ペアで約7万のショートピンなど初めてである。だが造りや音質への効果を考えると釣り合うと思う。

それにしても、これらはGround ARAYと似た使い方なのだが、効果が全く異なるのが興味深い。使い方が同じでもコンセプトや設計が違う製品なのだから当たり前なのだが、なにかとてもオーディオの面白さを感じる。

私の場合、Stromtankを使っていること、dcs Bartokがそもそも静かな機材であることなどから、ノイズについてあまり悩んでいないことがあり、Acoustic Reviveのリアリティエンハンサーの方に、より関心が高い。


いままでも空き端子に挿して音を良くするというふれこみで売られていた機材は結構あったし、今もいくつかある。過去の製品を含めて、それらの全てを試できたわけではない。だが、以上の二つは音質向上という意味で効き目の種類は異なるものの、近頃では目覚ましいオーディオ製品と言えるだろう。

もちろん、これらはコロナショックの直前に発売された商品であり、

今のオーディオ界の、ひいては世界全体の現状を踏まえていたわけではない。

なのにどこか、これらの製品にはタイムリーな雰囲気が漂う。

コンパクトでそれほど高価でもないが、薄利と言い切れるほど安価でもなく、

誰にでも受け入れられやすく、確実な効力を発揮するオーディオアクセサリー。しかも政府から支給される10万円の使い道としてピッタリしてさえもいる。今やスピーカーやアンプをガラリと入れ替えるような状況になく、むしろ、手持ちの使用頻度の少ない機材、長期間動きのない在庫を処分して現金化し、世界の経済状況の悪化に備えるべきとの空気が濃い。このような状況下でも新たな商品を売りたいなら、いささか特殊であるがニッチなアイデア商品を作って出した方がよかろう。

これは明らかに、AIR Force ZERO、あの戦艦大和のようなオーディオの王道・覇道とは無縁の姑息なオーディオの手段であるが、

ハイエンドオーディオがしぶとく生き延びるのには、こういうささやかなモノも重視されるべき時代だ。



もちろん、アクセサリーを売るだけでハイエンドオーディオの経済が維持できるとは思えない。オーディオメーカーはこれを機にもっと新しいタイプの製品を生み出さなくてはならないはずだ。

それは優れた音質と低価格でもって、従来のオーディオのヒエラルキーを破壊するものであるのはもちろん、それ以外にも今までのオーディオになかった要素を持つべきだ。

これについてはコロナショック以前から流行り始めた、世の中の新たなトレンドがヒントになる。

例えば最近、世の中の様々な場面で聞く謳い文句、サスティナビリティ(持続可能性)という言葉がある。エネルギー資源、水産資源、廃棄物処理などとの関連で環境分野、経済分野、政治分野で用いられることの多くなってきた用語であるが、分野ごとに定義に差があり、それについて論じられるほど私は詳しくない。

ただ私が知っているのは、サスティナビリティとは、企業がなにかモノを生産したり、サービスを提供したりする際に、利用した自然環境に対して、なんらかの還元、環境に良い影響を与えるような動きを加えることである。

音楽でいえば、自然に囲まれた野外会場でコンサートをする場合にそこで使われる電気を全て太陽光発電でまかない、二酸化炭素を出す火力発電所からの電気を使わないなどの動きがそれにあたる。

だが、こういう社会の動きにハイエンドオーディオメーカーは疎(うと)い。

サスティナビリティが自らの企業利益に寄与しないと考えているか、

そもそも関心がなく、理解しようともしていないかどちらかである。

果たして、それでいいのか。

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この前、高級時計メーカーがサスティナビリティを謳っているという記事を読んで私は驚いた。

例えば環境維持のために再生可能エネルギーを電源としている時計工場を持っていることや、リサイクルゴールド素材あるいはフェアトレードの保証のあるクリーンなゴールド素材の時計ケースへの使用、リサイクル可能な時計の梱包材の採用、新品の生産と並行して中古時計の修理・修復にも注力することで、新品の生産量を減らして、新品の生産に関連したエネルギー量を減らすなどを彼らは宣伝しているのである。

実は、ハイエンドオーディオと同じく、高級時計の世界も飽和し、新たなコンセプトを求めている。だが、彼らはこちらと違って、既にある程度はそれを実践しているのである。

サスティナビリティという言葉は出たてのうちは、単なる企業の社会貢献のコンセプトとしての立ち位置でしかなく、掛け声だけで機能していない面、先々の利益につながるか不明な点が多かったが、若い購買層がこのキーワードに敏感に反応することが市場のリサーチから分かってきて以来、風向きは変わってきている。高級時計とハイエンドオーディオには類似点があり、消費する層も同じである。

この方向性でできることはあるだろう。

すぐに思いつくものとして、スピーカー表面の突き板となる絶滅危惧種の希少木材が生えている森の維持・管理への投資や、環境に配慮して生産される電子部品の積極的な採用、古くなり機能しなくなったオーディオ機器を引き取って再生し、自然環境への有害物を含むオーディオ機器部品の廃棄を減らすなどの試みなどが考えられるが、この界隈ではこのような話をあまり聞かない。

また、価格帯ごとにいくつものモデルを作ったり、一定のサイクルで、前のモデルとあまり差のないニューモデルを発売することで、広く儲ける、あるいは買い替えで儲ける姿勢ではなく、

比較的安価ながら高性能かつ安定した音質の製品を、階層を設けず1モデルのみ開発して、モデルチェンジせず息長く作り続けるという姿勢なども、サスティナビリティのあるオーディオメーカーの態度と言えるかもしれない。これも実践可能なことの一つだろうが、ハイエンドオーディオでよくある話とは言いがたい。(ただ、現在のハイエンドオーディオの内実が、時に囁かれるように、新品が売れているのではなく単に中古品が色々な人のリスニングルームを巡回しているだけだとしたら、それはそれでサスティナブルな雰囲気はすでにあるのかもしれぬが・・・・オーディオを嗜む人が少なくなった今、中古品だけでハイエンドオーディオをやってゆくというアイデアもなくはない。)

とにかくLOHAS(Life styles of health and sustainability, 健康で持続可能な生活様式)はアフターコロナにおいても社会の重要なテーマであり続けるはずであり、このトレンドを上手く音質向上と絡めることができれば、今までにないジャンルのオーディオ製品が生まれる見込みはある。


戦艦大和を生み出した巨艦主義、それよく似たハイエンドオーディオの物量投入主義は、アフターコロナの世界では時代錯誤である。実は、その方針はコロナショック前からすでに時代遅れだったのだが、既存のオーディオ経済のため、昔からあるオーディオ技術の神話のためという名目で無理を押して生きながらえてきた。

コロナショックとは、それ以前にすでに弱含みだったものに引導を渡し、それ以前より、成長する潜在能力を持っていたものの台頭を促す契機であろう。

ここに至っては、旧来の物量投入型、富豪向けを意識した、度外れのハイエンドオーディオには一度区切りをつけた方がいい。戦艦大和は撃沈され、終戦を迎え、日本が苦しみながらも新たな日本として再起したように、これを機にハイエンドオーディオも一度リセットして、新たな再起の道を歩んだらどうかと思う。

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by pansakuu | 2020-05-23 15:54 | その他