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ヘッドホンオーディオの私的な歴史、そして次の10年

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書を捨てよ、町へ出よう
寺山修二


2016年も最後ということで俯瞰的な話で締めくくりたい。
私の知る限り、オーディオ全体の歴史については様々な本やHPにまとめられているが、ヘッドホンと、それに関係するオーディオの歴史・経緯について最近の日本での動向を含めてまとめたものがない。簡素というよりは粗雑ではあるし、間違いも多々あろうが、様々な資料にあたりながら、とにかく自分なりに日本を中心としたヘッドホンオーディオの歴史について以下のようにまとめてみた。

1891年頃
・フランスの技術者エルネスト・ジュール・ピエール・メルカディエが電話受信機用として、歴史上初めてのイヤホンを開発、その特許を米国で取得。
・この頃、イギリスで教会や劇場での音声を電話線を通して、家庭で聞くというエレクトロフォンという富裕層向けの有線放送が誕生。聴取に用いられたレシーバーは家に居ながら音楽を楽しめる機器であり、ヘッドホンの祖形。

1910年
・米国の電気技師のナサニエル・ボールドウィンが自宅の台所で左右二台のレシーバーをヘッドバンドに取り付けた機器を考案。ヘッドホンの誕生。その優れた音質を米海軍が評価し、購入に至る。これ以降、しばらく高性能ヘッドホンは全て軍用。

1937年
・ドイツのオイゲン・ベイヤーが世界初のダイナミック型ヘッドホンDT48を開発。彼は後にbeyerdynamicを設立。

1946年
・中野にフジヤカメラ店開店。のちのフジヤエービックであり、日本におけるヘッドホンブームの盛り上げに大きな影響を及ぼす。

1949年
・独のAKGが同社の最初のヘッドホンK120 DYNを発売。

1957年
・米RCAの技術者であるウィラード・ミーカーがノイズキャンセリング機能のあるヘッドホン用のイヤーマフを開発。

1958年
・アメリカのヘッドホンメーカー、KOSSを創設したミュージシャンのジョン・コスが、一般向けにステレオヘッドホンを開発。軍用レベルのヘッドホンで音楽を聞いたことが契機。

1959年
・日本のスタックスが世界初のエレクトロスタティック型ヘッドホンを発表。

1967年
・独のゼンハイザーが世界初のオープンエアー型ヘッドホンHD141を発売。

1968年
・Kossが米国初のエレクトロスタティック型ヘッドホンを発表。

1972年
・米コネチカット州にマークレビンソン・オーディオ・システムズ設立。スピーカーによるハイエンドオーディオが本格的に始まる。

1979年
・ソニーが携帯オーディオプレーヤー、ウォークマンの初代モデルTPS-L2を発表。ヘッドホンが世界中のあらゆる場所で日常的に使われるようになる。

1982年
・CD登場。アナログレコードを急速に駆逐し始める。

1989年
・ソニーが高級ヘッドホンMDR-R10と超定番モニターヘッドホンMDR-CD900STを発売。
・AKGが真のオープンエアー型ヘッドホンK1000が発売。

1990年
・ニューヨークのブルックリンで発祥したGRADOが同社初のヘッドホンHP1を発売。

1991年
・ゼンハイザーは当時、世界で最も高価なヘッドホンシステムとしてOrpheus(HE 90/HEV 90)ヘッドホンシステムを発売。後のハイエンドヘッドホンの源流。
・Ultrasoneがドイツ・ミュンヘンに設立される。開放型ヘッドホンHFI-1000を発売。

1993年
・STAX SR-Ω 発売。日本におけるハイエンドヘッドホンの前哨。

1994年
・GRADOのベストセラーSR60発売。

1995年
・ゼンハイザーより名機HD600発表。
・ソニーより世界初の市販のノイズキャンセリングヘッドホンMDR-NC10が発売されるも、あまり普及はせず。

1999年
・SACD、DVDaudioが登場する。いわゆる「ハイレゾ」音楽データの原型となる。残念ながらオーディオマニア以外への浸透はせず。

2001年
・10月、最初のiPodがマッキントッシュ専用のデジタルオーディオプレーヤーとして発表される。iTunesとの同期機能を持ち、自宅での環境をそのまま外へ持ち出せることが特徴。音楽を聞くためのDAPそしてイヤホンが全世界に急速に普及。
・ノイズキャンセリングヘッドホンBose Quiet Comfortが日本で発売され、この種のヘッドホンが本格的に普及。
・日本の電気用品安全法が改正され、外国製のヘッドホンアンプなどでPSEマークを取得していないものは、原則的に日本国内での売買ができなくなる。以後、日本で公的に外国製のオーディオ機器、特に電源ケーブルなどを輸入し売買することが困難に。
・世界最大のヘッドフォンオーディオフォーラムHead-FiがJude Mansillaにより設立。このような建設的なヘッドホンオーディオ論議が出来る場が日本には未だ存在せず。

2003年
・ゼンハイザーより名機HD650発表。目に見えないマイナーチェンジを繰り返しつつ現在も発売中。
・圧縮音源配信iTunes Storeが開始。
・EUにRoHS指令が発令。これによりEUで電気機器のパーツに含まれる有害物質の使用が制限。高音質だが、また代替についてはメーカーに委ねられたため、多くのオーディオ機器に音質的あるいは価格的な影響。これによりオーディオ機器全体に若干の音調の変化。

2004年
・オーディオテクニカの名機ATH-AD200発売。この頃のテクニカは覇気があった。

2005年
・この頃よりiPodに付属するイヤホンの音質に飽き足らない人々がより高級なカナル型イヤホンを買い求める。
・水樹奈々のEternal Blazeが大ヒット。この頃、日本においてアニソンが独立した歌謡ジャンルとして定着。アニソンをメインソースとして、これを高音質で聞こうとするオーディオマニアが“日本だけ”に現れる。

2006年
・米RSAが高級ポタアンの定番SR71を発売。この頃、国内外から多数のポタアンが発売。
・日本の新興オーディオメーカーizoが高性能ヘッドホンアンプiHA-1のファーストモデルを発表。別電源などを持つ高度なコンストラクション。パソコンで音楽鑑賞するための環境の向上を掲げる。このコンセプト自体は2016年末の今も生き続けている。
・この頃、ブログMusic to Goにより日本にヘッドホンのリケーブル、バランス駆動が紹介される。日本でヘッドホン・イヤホンで高音質を追求する動きが本格的に始まり、ハイエンドヘッドホンへの関心が高まる。
・11月11日にフジヤ主宰の最初のヘッドホン祭り「ハイエンドヘッドフォンショウ」が定員制で開催。出展されたシステムはたった5組であったが、2016年現在から見ても、かなりハイエンド寄りの高度な内容。
・Ultrasone Edition 9が発売される。当時としては突出した高性能・高価格ヘッドホン。

2007年
・夏、萌えるヘッドホン読本が同人誌として発売。日本のヘッドホンムーヴメントがいわゆるオタクカルチャーとリンクしていることを印象付ける。
・12月、ヘッドホンブック2008発売。おそらく世界で初めての本格的なヘッドホン専門ムック。
・英LINNよりKLIMAX DS発表。ネットワークオーディオの始まり。音質はもちろん音源管理を容易にする側面からも、ヘッドフォニアでこのレベルの機材を上流とする者が現れ始める。

2008年
・ソニーが世界初となるデジタル・ノイズ・キャンセリング機能がついたヘッドホンMDR-NC500Dを発売。
・米モンスターケーブルとBeatsエレクトロニクスが共同開発したBeats のファーストモデルBeats Studioが発売される。
・韓国StyleaudioよりUSB接続DAC内蔵ヘッドホンアンプCaratシリーズ発売開始。
・米HeadroomのBalanced Ultra Desktop Amp(BUDA)が、意識の高いヘッドフォニアにより日本に輸入されはじめる。日本での本格的なヘッドホンのバランス駆動の始まり。
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2009年
・ゼンハイザーがハイエンドヘッドホンHD800を発売。
・アニメけいおん!ブームに連動し、AKG K701の売れ行き好調。アニメとヘッドホン・イヤホンの関係の強さを物語る事件。
・beyerdynamic T1が発売。
・日本のオーディオメーカーLUXMAN初の高級ヘッドホンアンプP-1uを発売。
・この頃より、日本の業務機器メーカーOJI specialが、一般ユーザーから受注したカスタムメイドのヘッドホンアンプを生産。以後、ユーザーの要求に応えた多くのヘッドホン関連機器の特注品を製作し続けている。
・秋のヘッドホン祭りにおいてHelter Skelterより高性能な自作ヘッドホンアンプの展示。優れたヘッドホンアンプを自作する個人の登場。

2010年
・Fit ear、UEなどのカスタムIEMがイヤホンマニアに注目され始める。
・ハイエンドスピーカーメーカーB&Wが同社初のヘッドホンP5を発売。
・武蔵野音研の設立。2chから派生し、ポータブルアンプ、ケーブルをカスタムメイドする業者の登場。そして、これを利用するディープなマニアの出現。

2011年
・STAX SR009が発売される。また同年末にSTAXは中国企業に買収。
・手堅くまとめられたバランス駆動可能なヘッドホンアンプIntercity MBA1 platinumが発売されるも、メーカーの消滅に伴い幻のアンプとなる。ここまでの日本のヘッドホンアンプ技術の集大成。
・この頃よりポータブルのDAC・アンプを何台か重ねて携行するイヤホンマニアが増加し、衆目を集める。
・日本の医療機器メーカーNew OPTがKH-07Nヘッドホンアンプを発売。さらなる異業種からの参入に注目。
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2012年
・5月にG Ride AudioはハイエンドヘッドホンアンプGEM-1を突如として発表。本格的なハイエンドオーディオの手法と強烈な個性をヘッドホンオーディオに初めて持ち込む。
・日本のベンチャー企業Agaraが日本で初めて100万円オーバーのヘッドホンアンプAGH-1000を発表。しかし、この意欲的なメーカーはその後、消息不明となり、このアンプも幻のアンプとなる。
・ハイレゾ音源の配信開始。SACDの失敗は明白となる。
・密閉型の名機Fostex TH900発売。4年後のMDR-Z1Rの発売まで密閉型ヘッドホンの王として君臨。
・プロ用スタジオ機器メーカー、マス工房がヘッドフォンアンプmodel 370を発表。コンシュマーヘッドホンオーディオにプロ機器の色付けのない音調を持ち込む。
・日本のプロミュージックレーベルとして2006年に設立されたWAGNUSは、この年、フジヤエービックと正式提携、ポータブルオーディオプロダクトを手掛ける。特にマニアックなイヤホン用リケーブルで多くの実績を作る。
・USBでDSDデータを転送できるDop(DSD audio Over PCM frames)がアンドレアス コッチらにより開発される。DSD配信の可能性を拡大。
・日本のベンチャー企業Kuradaがフルウッドハウジングのヘッドホンを開発。Tayler madeと称するヘッドホンを製作。
・米ケーブル専業メーカーJPSより弩級平面駆動ヘッドホンAbyss発表。

2013年
・日本の業務用機器メーカー、グラストーンより、全面金メッキを施した銅シャーシを纏う創業15周年記念製品A15-HPA30Wヘッドホンアンプが15台限定で生産される。これも幻のアンプ。
・ステレオサウンド姉妹誌DigiFiにUSB-DACつきヘッドホンアンプの付録がつく。この頃より、オーディオ誌に付録を付けることが流行。この頃から日本の出版業界の斜陽化は明らかになり、同時に既存のオーディオ雑誌の内容の陳腐化が囁かれる。
・この頃よりオーディオ用に開発されたUSBケーブル、LANケーブルが次々に発売。

2014年
・10月に高級ヘッドホンアンプRe Leaf E1発表。意気込みが空回りしていない初めての100万円オーバーのヘッドホンアンプ。すこぶる高価であり、無名のメーカーの製品でありながら、幻のアンプとはならずに現在も購入可能。
・11月にGOLDMUND Telos headphone Amplifier発表。発売とともに中国で好調な売れ行き。スーパーハイエンドオーディオメーカーが初めてヘッドホンオーディオに参入したインパクト大。
・BeatsエレクトロニクスがAppleに買収される。
・AKG K812が発売される。遅すぎたフラッグシップ。
・Just earによる世界初のテーラーメイドイヤホンの受注開始。
・フジヤ主宰の冬のポタ研開催、異例の大雪にもかかわらず、中野に多くの若いマニアが来場。
・その冬のポタ研にてCHORD Hugoのお披露目。ハイエンドオーディオメーカーがポータブルオーディオを強く意識し、持てる技術を注ぎ込んだ世界初の例。
・Dela N1Z発売。ネットワークオーディオで使われるNASにハイエンドオーディオの手法を適用した音質対策品の登場。
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2015年
・1月にJH AUDIO Layla日本先行販売。このロットは13分で完売。
・5月にポータブルオーディオブランドAstell&Kernより、超高級DAPであるAK380が発表される。従来のDAPとは一線を画する高音質に驚き。
・Hifiman HE1000, Audeze LCD-4が発売される。HD800を超えるスーパーハイエンドヘッドホンが市場に本格的に登場。
・GOLDMUND Telos headphone Amplifierの改良型GOLDMUND THA2が発表される。これほど高価なヘッドホンアンプに2nd versionが出るのは異例。
・Fostexより真空管式の弩級ヘッドホンアンプHP-V8が発表される。
・かねてよりアナウンスされていたが、発売が伸びていたオーディオクエストのヘッドホンNight Hawkが日本で発売される。二つ目のケーブル専業メーカーによるヘッドホンへの参入は驚き。
・CHORD Mojo発表。ポータブル市場、騒然となる。
・定額制音楽ストリーミングサービスApple music, TIDAL開始。TIDALはCDクォリティで4千万曲を配信するも、日本には未だ上陸できず。
・またこの頃からオークションでヴィンテージのヘッドホン機器が高価で取引されるようになる。Sennheiser OrpherusやSTAX SR-Ω、SONY MDR-R10などがプレミア価格で落札される。
・ゼンハイザーが真空管搭載コンデンサ型・超高級ヘッドホンシステムHE-1を発表。音質が評価される反面、無駄なギミックと法外な価格が既存のヘッドフォニアからの批判の的となる。2016年現在も詳細な仕様は公表されず。
・この頃よりヘッドホン・イヤホンの高価格化・高音質化あるいはピュアオーディオ化が加速。
・USB DACへの異論としてLAN DACとも呼ぶべきMerging NADAC発表される。音質はさておきROONとの類似性・関連性という視点からも注目。

2016年
・HE-1に対抗するようにHifimanもShagri-laシステムをほぼ同価格で発表。
・9月にアップルがヘッドホンジャックを排除したスマートフォンiPhone7を発表。
・TIDALと連携でき、多様な情報をユーザーに提供する、英の総合音楽鑑賞ソフトROONが日本に紹介される。やや高額であることなどから、日本での浸透は限定的。
・群馬のベンチャー企業Brise audioがスーパーハイエンドオーディオケーブルをヘッドホンリケーブルに持ち込む。リケーブルの世界を拡大。
・フランスのスピーカーメーカーFocalがハイエンドヘッドホンUtopia、ELEARを発売。
・米MSB Thechnologyが超弩級機Select DACに接続することを前提とし、かつSTAX の静電型ヘッドホン専用となるヘッドホンアンプを発表。総計で1500万円を越える現世界で最も高価なヘッドホンシステムとなる。HE-1、Shagri-laなどと並び富裕層をターゲットにしたヘッドホンシステムの流れが出来始める。
・Re LeafはE1の上位モデル、世界展開モデルとして曲面を多用したステンレス筐体を纏うE1Rを発表。
・ソニーがSignatureシリーズと銘打ってハイクラスなDAP・ヘッドホン(MDR-Z1R)、ヘッドホンアンプの三つ組みを発表する。ヘッドホン文化のリーディングカンパニーとしての矜持を示す。
・この頃ケーブルメーカー各社がヘッドホン用のリケーブルの開発を画策しはじめる。
・AKGが、所属するHarmanグループごとSamsungに買収される。
・ハイエンドオーディオメーカーPASSが初めてのヘッドホンアンプHPA-1を発売。


こうして年表を見てゆくと分かってくることがある。
まず、日本でハイエンドヘッドホン・イヤホンのムーヴメントが本格的に始動したのは2006年11月11日にフジヤ主宰の最初のヘッドホン祭り「ハイエンドヘッドフォンショウ」が開催された時ではないかということ。スピーカーによるハイエンドオーディオの始まりを1970年代とすると40年ほど遅れていることになる。このイベント以前にも散発的な動きはなくはないが、一つの連続的な動きとなっていったのは2006年以降と考えるべきだ。つまり今年、2016年は十年目の節目に当たっていた。
さらに、2006年をハイエンドヘッドホンオーディオ元年とすると、この動きが十年もの間続いていることから、これは単なる一時的なブームではないと考えられる。それどころか、より進んで2015年、2016年におけるハイエンド機の台頭を見ると、これはバブルではないかとさえ思う。
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次に私個人に関して、この年表内で重要な事柄を述べると、まず2006年頃にMUSIC TO GOの記事を読んでヘッドホンオーディオに興味をもったことだろうか。そのころはWilson audioやWadia、FM acoustics、Boulder等を駆使するスピーカーオーディオマニアであった。あのブログの記事を読んでから色々なHPAやヘッドホンを使ってみたが、今思い出してみても音質はいま一つであった。初めてそれなりに納得できる音が出たのは随分後の2011年あたり。HD800とMBA1 platinumの組み合わせであったが、思い返せば、それもまあそれなりにというくらいだった。
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個人的にこの年表に載せた事績の中で最も衝撃を受けたのは2012年のG ride audio GEM-1の登場。これほど強烈な個性をハイエンドオーディオの手法に載せて出してきたプロダクトは現在に至ってもほぼ記憶にない。別電源に二本の電源ケーブル、リケーブルしたHD600 Golden eraという組み合わせのインパクトはこの先も忘れない。そしてあれは恐るべきサウンドを奏でるヘッドホンシステムでもあった。ここになにかが突如現れたのを感じたが、その全体像は私には見えていなかった。

そして、それがはっきり見えたのがGOLDMUND Telos headphone amplifierと比較しながら、Re Leaf E1のプロダクトモデルを聞いた2014年秋頃。このモデルは日本のハイエンドヘッドホンアンプの原器でありシンボルである。STAX SR009が近い位置にいながら、それを十分に生かす高級なアンプが選べないことなどがあり、行けなかった場所にたどり着いたものとも解釈できる。E1は私の中にありながら、私本人にも知られなかったヘッドホンアンプのイデアを具現化した。そしてハイエンドヘッドホンオーディオとはこういうものなのだと、ビジュアルとサウンドの両方で明確に示した初めてのギアだった。あれから随分経ったように思っていたが、まだ二年ほどしか経過していないのだね。

また私は今、このRe leaf E1のベストパートナーの一つとして同じ日本製のSONY MDR-Z1Rを愛する。ごく最近あった、このヘッドホンとの出会いもまた大きい。その前に出会い、真にエバーグリーンな価値を持つと思われたHD650dmaaに匹敵するほど飽きのこないサウンドを奏でながら、既存の枠を破る先進性を備え、しかも密閉型であるというヘッドホン。元来、ヘッドホンとはその本来の用途から考えて密閉型になって初めて完結するという密かな持論を持つ私にとって、この完成された音響美、機能美は衝撃であった。

ところで、この十年はヘッドホン・イヤホンの高級化・ピュアオーディオ化、PCオーディオ・ネットワークオーディオの普及、アニソンブーム、SACDの衰退とハイレゾの登場、スピーカーを使うハイエンドオーディオの高価格化・ユーザーの高齢化とハイエンドオーディオ不況、オーディオに関するSNSの発達という互いに独立した光と影の要素が折り重なっていた時代である。そして、これらの要素が渾然一体となり、ヘッドホン・イヤホンをコアとする、独立したオーディオの流れが形成された時期であるとも言える。この独立したオーディオの流れは基本的にはその前の時代には存在しなかったものであり、2016年から先の「次の10年」へと、なだれこんでゆくものだと考えられる。

次の10年に連なる、最近の注目すべき動きとして2016年、ヘッドホン・ポータブルオーディオのリーディングカンパニーであったソニーが本格的にハイエンドヘッドホン市場に再参入したことがある。これを見ると、従来のハイエンドオーディオアンプ・スピーカーの売れ行きが頭打ちになる中、ハイエンドオーディオメーカーのヘッドホン分野への新規参入の加速が考えられる。また、ヘッドホン自体とそれ関連する様々なアクセサリー・ケーブルについても、異なる業種からの参入あるいはコラボレーションが期待される。
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例えば、BeatsのグランメゾンFendiとのコラボやFocal UtopiaのジュエラーTounaireとのコラボ(10万ユーロの史上最も高価なヘッドホンが現れた)など、服飾メーカーや宝飾メーカーとコラボしたバージョンが存在するのは周知のとおりであるが、このような従来のオーディオにはほとんど関連のなかった業界とのコラボや新規参入が実現するかもしれない。特にヘッドホン・イヤホンの持つ「身に着ける」という要素は、音質とは全く別なハイエンド、つまりハイエンドファッションとの兼ね合いで注目される可能性もある。
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ファッションとの関係について言及するまでもなく、ヘッドホンの流行は多分に音楽や出版、アニメなどのカルチャーの動きや現代の都市のライフスタイルと関連があることも年表からわかる。例えばアニソンはスピーカーにて大音量でおおっぴらに聞くような音楽ではなくイヤホンで一人で聞くものだと考えている日本人は少なくない。他人を常に憚って生きる都会の日本人の考えそうなことである。そもそもクレーム社会である現代の日本の都市において、スピーカーで、しかも大音量で音楽を愉しむことは現実的ではない場合が多い。また極めて日本の都会人は多忙であることから、退職した老人でもないかぎり、深夜の自室や電車の中や立ち寄ったカフェでしか音楽を聞く時間がない。だから、携帯可能だったり、どんな時間でも小さなスペースで楽しめるヘッドホン・イヤホンが人気なのだろう。
世界的に見ても時間と空間の有効利用が人間生活のテーマとなっており、これはハイエンドオーディオを代表するような大型のスピーカーシステムとは相いれない風潮である。そういう効率性、合理性を重んじながら、一方で癒しを求めるという観点から見ても高音質なヘッドホン・イヤホンに世界的な人気があるのは当然なのである。

無論、スピーカーを使うハイエンドオーディオがなくなることは考えられないし、ハイエンドヘッドホン・イヤホンの流れもこの先、ライフスタイルの変化、技術あるいはコストの壁に突き当たり、スタックしてしまう可能性は否定しきれない。現にハイエンドヘッドホン・イヤホンの高価格化はこのジャンルがスピーカーと同じ末路を辿る可能性を示唆している。

新しいオーディオの流れがなんであれ、既存のハイエンドオーディオは、その本質が価格・大きさ・重さは度外視で際限なく音質を追求するという態度であるがゆえに、一般大衆を置き去りにしただけでなく、結局は金持ちのオーディオマニアですら辟易するような規模と金額のものになってしまった部分がある。ハイエンドオーディオのモンスターマシーンたちを飼い馴らすために、音響的に完備された大きな部屋と専用の電源設備を用意することまで考えると、このようなハイエンドオーディオが強いる様々な負担の重みは、その対象である音楽が生活の中で持つ軽さと釣り合わなくなってきている。実は、この問題を我々オーディオマニアは常に相対化して誤魔化してきた経緯がある。いつものように結論を先送りするか、あるいは音楽の芸術的価値を美化することで、その対価が無限大であるかのように主張してきた。もっと具体的に言えばオーディオシステムにいくらカネをかけても、音楽そのものが持つ深い精神性となら、十分に釣合いが取れるかのように言い立ててきたのである。だが、時代は移り、価値観は変わりつつある。そろそろ年貢の納め時ではないのか。

この十年は従来のハイエンドオーディオの衰退とそれに代わる、新たな形のハイエンドオーディオの始まりの時代であったと位置づけるべきなのかもしれない。

もうすぐ、日本のハイエンドオーディオの新しい10年が始まる。

by pansakuu | 2016-12-08 23:06 | その他