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四天王 : 4つのフォノイコライザーを聞く

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四天王とは、仏門の4人の守護神のことをいい、
また転じてある分野における実力者の4人組のことも指す。
ピクシヴ百科事典より


さて、
あなたにとって最も重要なオーディオコンポーネントはなにか?と訊かれたら、
私はフォノイコライザーと答えるだろう。

フォノイコライザーは簡単に言えばRIAA特性をフラットに戻す機能を持つ機材である。
逆に言えばそれしかできない。デジタルオーディオしかやっていない方には無縁だし、アナログオーディオにおいては、その他のファクターであるカートリッジやターンテーブルの選択も音にかなり響くことは間違いない。スピーカーやアンプの存在感についてもいわずもがなである。
しかし、それでもフォノイコライザーを一番に気にするのは、単純に私の経験からである。
最高のフォノイコライザーを使った場合に出て来る音、そこにあるオーディオ的な快楽の深まりは、他のどの機材にも替えがたいところがあるからである。例えば最も強いと思えるデジタルオーディオシステムもこれらのフォノを組み込んだシステムに比べれば、そのメリットは多少表面的である。音の深み、掘り下げが浅いと感じることが多い。ここで言う音の深みとはズバリ音楽性の深みだと思ってもらっていい。

現在、私が本当に手放しで実力があるなと思っているフォノイコライザーは4つある。
Constellation Audio Perseus、Boulder2008、Qualia MonoBlock phono、EMT JPA66である。これらフォノイコライザー四天王全てについて、ざっくりとインプレッションを書けるほど、十分に試聴するのに年単位で時間がかかってしまった。これらはデモがなかなかない機材なのである。結果として、全てを聞いて思うことは、これらの機材それぞれのサウンドが、現代オーディオの辿り着いた果てであるということだ。デジタルオーディオではMSB Select DACやNagra HD-DACなどを除けば、これらの機材の音楽性の絶対領域に達しているものはない。
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四天王の筆頭たるConstellation Audio Perseusのサウンドについては以前、詳しいreviewを書いたので、もうあまり書かない。
フォノイコライザーとしては、というエクスキューズを必要としないほどSNが良く、音の立ち上がりと立下りの速度の絶妙な軽快さ、音に漲る独特の緊張感と寛げる柔らかさ、雨雲の隙間から差し込む光の持つような、あの救いのような音の明るさ、アナログではありえないと思わせるワイドレンジ、主張しすぎないが確固とした音楽性の豊かさ。こいつの音楽性は爽やかで軽いが、恐ろしく心に沁む。
ナンなんだこれは。
この音に心底からノックアウトされつづけて数年が経つ。本当に良い音を持つ機材なのだが、そろそろ別な音に接したいと思うようになっているのも確かだ。なにしろ、このPerseusの浸透力、影響力は強く、これを使っているかぎりこの音から抜け出すことは出来ない。ヤク中の患者になったも同然である。オーディオに関しては別な角度から見れば廃人になりかねない。Constellation Audioでは、このフォノイコライザーの上に限定のORIONという富豪向けの機材があるが、これはPerseusのサウンドの良さを適度に拡張したような機材で、その値段とは釣り合わない。Perseusでいい。私はConstellation Audioの機材において、今のところ、このPerseusがベストの選択だと思う。Constellation Audioは一般に故障の多さが問題とされているが、きわどくいい音を出す機材は故障しやすいという法則に従っているのだろう。
もちろん、この機材も故障した。そこは不安ではあるが音が良いので全て許せてしまう。そもそも価格は高いが音を聞けば仕方がないとあきらめがつくところから、もうその許しが始まっているのだが。
また、このPerseusのサウンドは現代の最新のデジタルオーディオをも飛び越えるような、新味のあるサウンドなので、昔からアナログオーディオをやっている人には受け入れがたいものである。だが、私はリーモーガンやゲッツやコルトレーンの録音を、まるで昨日出たばかりの新譜の如き音質で聞きたいと願ってきたので、これでいいと思っている。
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次に出て来るBoulder2008は一見して重厚なフォノイコライザーである。Boulder独特の表面仕上げやスイッチのデザインと感触は音に通じるところもある。確かに筐体に重さもあり、別電源構成でもあるせいか、じっくりと厚みのあるサウンドだ。そして音のスケールもかなり大きい。これは筐体の大きさに通じるのだろうか。だが、このサウンドをさらに特徴づけるのはたとえようもない人肌の温度感とウェットな音の質感だろう。この音の触感が生む快楽は他のフォノイコライザーでは決して感じられない。さらに、この音触と音のスケール感がブレンドされた時に生まれるケミストリー!それは包み込むような寛容がオーディオに宿る瞬間である。そのサウンドに接したら、包み込まれ、身をゆだねるしかできない。ここでは響きがとても広範囲に拡がり、それが大きなスケール感を生むのだが、音が拡がったせいで薄味になることがない。これはBoulder独自の質実剛健さが発揮されたのだろうか。実際、これはPerseusが孕むやや病的とさえ言える繊細さとは対照的に、とても実直で健康なサウンドである。とかく、このレベルの機材の生み出すサウンドというものは多かれ少なかれ毒を隠し持つものだが、このあっけらかんとオープンな音にはそういう隠微さはない。複雑であるが、それを秘匿し、ふくむようなプレゼンテーションをせず、全てを白日のもとに素直に曝けして嫌味がない。あけっぴろげだ。このフォノイコライザーは裏表はなく、どんなときに彼の部屋を訪れても健やかで優しい微笑で迎えてくれる親友のような存在であろう。こいつの音楽性のコアは心の底からの寛容だ。SN感やセパレーションの良さなどの基本的な性能はハイエンドフォノとして恥じないものだが、そこではなく、上記のような幾つかの特徴ゆえに、この4機の中でも、その存在価値は大きい。このフォノは発売されてから随分と経つロングセラーだが、いまだにモデルチェンジはないのも頷ける。この方向性で、これ以上のサウンドを得ることは如何にBoulder3000シリーズでも困難だろう。最近、このフォノイコライザーの中古をどこかで見たが、Perseusの中古と比べても、かなりお買い得な価格だと思う。
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次に登場するQualia MonoBlock phonoについてはもちろん、その音のスケールが最大の武器である。Boulder2008を初めとして、ここに登場するフォノイコライザーは全て、他のフォノたちに比べて、かなり大きなサウンドステージを展開できる潜在能力を持つ。しかし、それらとは比べものにならないスケールの大きさがこのMonoBlock phonoにはある。もっとも、これは適切なプリアンプとモノラルパワーをあてて、初めて開花する能力であり、デモにおいては上手くプレゼンできていないケースもある。今回取り上げた4機の中では、一番強化された筐体を持つこと、最も調整の自由度がないことなど、恐ろしく尖った内容誇るフォノである。音像の出し方はやはり尖がっていて、強い輪郭があり、音像の存在感はこの4機の中で最も色濃い。この部分はコンバージェントオーディオテクノロジーのアンプなどの従来の音像タイプのサウンドを超えたところがあり、これ以上の存在感となるとウエスタンエレクトリックなんかの特別なオーディオ機材からしか聞けないと思う。こういう濃い音像が激しく躍動するところが、Qualia MonoBlock phonoのもう一つの真骨頂だろう。この音の過激さ、実にセクシーである。これはBolder2008のような聞き易い音ではない。疲労を伴うサウンドだ。全力疾走を飽くことなく繰り返すアスリートのような鋼の強さを隠し持つサウンドである。しかしそういうサウンドにありがちな音場感の不足を決して感じない。それどころか、音場はこの上なく広々としてリスナーを取り囲む。これは通常のオーディオにおいては矛盾以外の何ものでもないのだが、Qualia MonoBlock phonoの中では見事に調和している。確かにこれは危うい均衡かもしれない。どちらの要素も強いので、かけるLPによっては、バランスが片側に大きく傾くようなこともある。
このフォノをダブルウーファー、アクリルホーンで名高いJBL Project K2で聞くとどうなるだろう。あれは音に非常な厚みがあり、強力な音圧で音像を発射できるスピーカーだが、このコンビでは均衡はどちらに傾くのか?それはもちろんアンプにもターンテーブルにも依存するところだが、とにかくやってみたい。つまりそういうフォノなのだ。このシステムにこのフォノを取り入れた時にどういう音になるのか、予断を許さない、そういうスリルが常に付きまとうミステリアスな音楽性を孕むフォノなのである。設置も楽ではないし、SNも凄く高いわけでもない。接続する機材との相性もありそうだ。特にカートリッジは選ばなくては。しかし、どんなリスクをおかしてでも、リスニングルームに引きずり込んでみたくなる程の中毒性がこれにはある。これも欲しい。
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四天王の最後のひとりEMT JPA66はNAGRA HD DACを手にしてからは、WANTEDリストの筆頭に出てきた機材である。この4機の中で既に所有するPerseusに代わるとしたら、このフォノになる。代わりになるというのだから、Perseusに似ているのかというとそうではない。ほとんど似ていない。例えばカッコつけでしかない、使い勝手の悪いタッチパネルはJPA66にはついてない。対照的に、このフォノのフロントパネルには全てが一目瞭然に分かる親切なツマミが多数ついている。全ての設定をバックパネルに手をまわすことなく、フロントだけで簡単に行える。したがって、このフォノはかなり使いやすい。また、NAGRAではないが、やはり正面にメーターがついているのはとてもいい。これも暖かい色で黒い縁取りの独特のデザインのメーターは、ハンマートーン仕上げと相まって、このフォノのルックス極めて個性的なものとしている。それから、このEMT JPA66はプリアンプとして機能するので、プリアンプはなくていい。価格はかなり高いが、他の3機の単機能フォノと比べて安いと言える。私の嫌いな大型の電源部がついているが、この機材だけは例外的に好きである。
それというのも音が非常にいいからだ。これは上に述べた3機のフォノの良い点を合わせたようなサウンドである。
すなわち、Peruseusに聞かれる音の立ち上がりと立下りの速度の絶妙さ、音の柔らかさがあり、Bolder2008にある人肌の温度感とウェットな音の質感、Qualia MonoBlock phonoの音像の見事さとスケール感、それら全てがカオスのように混在してリスナーを圧倒する。これらのサウンドの要素の集合体が目前にひたひたと押し寄せ、知らず知らずのうちに耽溺してしまう。
また、このフォノが醸成する芳醇な雰囲気、音の香りを他の機材から感じたことはない。Peruseusのサウンドにも香りのようなものを感じるが、このフォノの音の香りは、ああいうスイートでスッキリした香りではなく、産地のオークションで競り落とされ、宝石のように扱われる極上のコーヒーを挽いたときの香り、あるいは森に寝転んで草笛を吹くときに吸い込んだ、あの下草の香り。例えにくいが何とも独特の、深呼吸したくなるような、いい香りのする音である。
また、このサウンドは、揺るぎなく強固な骨格を持ちながら、表面的には至極繊細である。人間的な曖昧さを音の表現の中に残しながら、全体に優れた機械的性能、音質要素のバランスを保つサウンドであり、音のスタビリティも高い。これは真空管を採用したフォノであるが、大規模な回路設計であり、強力な別電源を持つ。この設計規模と秘めたパワーが、こういう音の特徴を生むのだろう。
またPeruseusとは異なり、普通のアナログのタイム感というか、従来のアナログオーディオから逸脱しない温かみや滑らかさ、適度に良くない(?)SN感から来る懐かしさのようなものも横溢している。だから昔の録音が違和感なく、それらしく鳴る。それでいて新しい切り口にも事欠かないのがいい。昔の演奏でこういうことをしていたのか、あんなことをしてたんだと驚くような瞬間が重層的に訪れる。昔の録音ばかりいいのではない。現代的はECMのレコードをかけても、実にハマる。同じドイツのものだからなのか、相性は抜群である。最近のポップスも感動的に再生可能である。元EBTGのベン ワットのアルバムをこのJPA66で聞いた経験は忘れがたい。アルバム全編に流れるフェイドでカジュアルな空気感がリアルに表現されていた。これはSNに頼ってリアルなのではなく、フォノイコライザーが、自分の音の方向性を今かけている音楽にそろえてくるような仕草をするからなのである。音楽に素朴に従う、素朴に倣う。このような素朴さはこの4機のEMT JPA66にしか見られない特徴である。特に、これはQualia MonoBlock phonoとは対照的な点である。MonoBlock phonoは音楽に逆らってでも自分の音調を通そうとするところがある。その、抗う・争う様が聴きモノなのだが、JPA66はそんな激しいことはしない。しかしBolder2020ほどあっけらかんと素直な音でもない。音にはきちんと含むところがあり、陰影が十二分に濃い。ここでは鮮やかな音の陰影・コントラストがライトアップされた彫像のように音楽を立体的に描き出してくれるが、そこに音楽に含まれる感情の明暗までが暗示される。この深まりは生半可なデジタルオーディオでは到底味わえない。
このEMT JPA66については、いつかリスニングルームに迎え入れることになるかもしれない。その時にはまたさらに詳しいレビューを書けるといいのだが。それにJPA66については何度聞いても分かり切れない部分もある。これはコアの部分にまだ謎を残すフォノイコライザーなのだ。

これらの機材のサウンドこそが、現代オーディオの最果てであり、そこにはデジタルオーディオにはほとんど含まれない何かがあると言ったが、アナログに豊富にあって、デジタルに比較的少ないもの、それは音楽性だと思う。古いタイプのDACには音楽性は豊富に感じられたが、DAC自体の性能は現代のものより低かった。昔のDAC・CDプレーヤーの音は、例えば音数の多さに関しては今のDACと比べようがないほど寂しい音である。位相やタイミングの正確さもくらべものにならない。Sforzato DSP-01とLINN Sondeck CD12を比較すれば、同じデジタル機材とは思えないほど音は異なる。だが、どちらが好きかと訊かれれば、ドライブメカの修理が効きさえすればCD12と答える。それは私の場合、オーディオにおいては音楽性の有無をもっとも重視するからだ。音の数値上の特性そのものについてはDSP-01の圧倒的な優位は揺るがないけれど、CD12にはDSP-01よりも豊富な音楽性がある。この音楽性がなければ、ハイエンドオーディオの存在価値など、生演奏の前にはほとんどなくなってしまうと私個人は思っている。その音楽を単なる音の連なりではなく、意味を持つ物語として語る能力が音楽性なのである。なお、CD12よりも豊かな音楽性をもつデジタルプレイヤー、それは私の知るところでは現行品としてBurmester069、MSB Select DAC、Nagra HD DACであるが、これらもフォノと同じく試聴がなかなか難しい。だから私がこういう話を書いてもほとんど意味がないかもしれない。
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聞くところによれば、優れた競走馬は今日走るレースが有馬記念なのか菊花賞なのか知っていて、騎手が仕向けなくても、そのレースに適した走りをするという。
優れたオーディオ機材もそうで、今、自分が再生している音楽をどのように聞かせれば、それを聞いている自分の主人は一番感動するのか、それを知っているような鳴らし方をするものである。これが音楽性の豊かさというものだろうと思う。
今回挙げた四天王のフォノは音質傾向がそれぞれ全く違う、それはハイエンドアナログオーディオの幅の広さを物語る。しかし共通するのは音楽性が極めて豊かなこと。そしてもちろん、音楽性の方向性も当然4様に異なった向きを向いている。これはデジタルオーディオではごく少数の例外を除き、まだ実現していないことだ。音楽性の方向でデジタルプレイヤーを選ぶという話はあまり聞かない。むしろデジタルオーディオの選択は数値に囚われている。デジタルオーディオのマニアの多くは恐らく数値の囚人なのである。
そしてハイレゾに代表される、数値によってオーデイオの価値を判断するデジタルオーディオにありがちな手法からは、或るレベル以上に高度なオーディオは生まれないはずだ。ハイエンド オーディオデバイスが芸術作品として昇華するには、それを創る技術者に芸術家としての素質・センスがなくてはならない。デジタルオーデイオに関する知識と経験、芸術に対する深い造詣と表現者としての資質。これらが同居する人間は、この世には少ない。だから良いDACは少ない。
一方でアナログオーディオには何故か初めから音楽性が宿っている。不思議な音の芸術性がどんなにプアなアナログ機材からも感じ取れる。アナログオーディオに取り組むだけで、オーディオの深いところに、いとも簡単に触れることができるような気がする。それをさらに深めるのが、ここに挙げた四天王なのである。ただ高価で豪華なデジタルオーディオでは達成できない音楽性の境地がそこにはある。
いったい、なぜなのだろう。
それが分かれば、デジタルオーディオにもっと多くの生命力を注ぎ込むことができるだろう。逆に言えばHD-DACやSelect DACはデジタルオーディオの手法でその秘密に触れている、数少ない例外なのだろう。

これはオーディオで最後に勝負を決めるのは音楽性の深さだと勝手に決めつけているだけかもしれない。私は未だ愚かで何も知らないオーディオファイルなのかもしれない。
だが、四天王たちの音をひとつ、またひとつと征服してゆくにつれて、その確信がさらに深まってゆくのを感じたのは事実だ。
音質だけではない。高めるべきは音楽性そのものなのではないのか。

by pansakuu | 2016-05-08 14:31 | オーディオ機器