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Sennheiser HE-1の私的インプレッション:Higher Higher



その人の空想のレベルで決まるんですよ、オーディオは
By 某オーディオ評論家


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Introduction

何はともあれ、
私がHE-1プロトタイプの実機を眼前にして思ったのは、
よくもこういうブツを企画できたなということであった。
それはもう素直に敬意を表するしかないことだ。
600万円のヘッドホンシステムなどというもの、そんなもんをスピーカーオーディオ向けの機材を開発している人間は空想すらしないだろう。そしてそこから出て来るサウンドについて現物を前にしてさえイメージできまい。確かに過去にOrpheusシステムを開発し販売した実績があるにしても、これはそれを上回るスケールの製品企画である。日本の家電メーカーでは決して通らないぶっ飛んだ発想・企画だと思う。そもそも、これを作ったゼンハイザーは自分をふつうの家電メーカーとは、もはや考えていないはずだ。もしかすると富豪向けの製品のみを製作する部門を持つ、ライカやパテックフィリップ、フェラーリのような存在と自分を考えているのではないか。
プロトタイプではあるが実機にごくごく短時間であるが、触れて聞く機会があったので、その体験を覚書として残しておくことにしよう。


Exterior and feeling

眼の前のHE-1は、1990年代にコストを無視し、ひたすら最高のサウンドを求めて開発されたOrpheusシステム、つまりHE90静電型ヘッドホンとHEV90真空管式ヘッドホンアンプのペアの後継機として位置づけられている。確かに同じく静電型で専用のヘッドホンアンプを合わせたものであるが、その形態や大きさ、機構、価格から、先代よりもコンセプトや設計規模は一回り大きなものと取れる。ヘッドホン自体にアンプが内蔵されたり、DACが付加されたり、不要な?ギミックがついたりしている。第一印象としてヘッドホンを気軽に愉しむには大袈裟な機材であり、実際に入手しても、しっかりした台のある、広い場所が必要など、ハンドリングしにくそうな雰囲気である。

ヘッドホンアンプ部 HEV1060について:
透き通るように白いイタリア産大理石で作られたシャーシがまず目に入る。石の表面は鏡面のように磨かれていて冷たい。実に豪勢な筐体だ。くまなく触れてみると、このシャーシは複雑な形状である。材の厚さは最も厚いところで2cmほどもあり、シャーシの形状はヘッドホンの収納ボックスのところで緩やかに盛り上がる。寸法や重さは非公開。だが大理石を使っているのでかなり重いのは間違いない。フットの大きさ、材質、形状は決定していないという。

起動のためのスイッチを兼ねている引っ込んだボリュウムノブを軽くプッシュする。(電源スイッチは背面)すると左側にマウントされたヘッドホンの収納ボックス(冷たい感触の材料で出来ていて金属製のようだ)のガラス張りのリッドがゆっくりと開き、内部のクッションがせり上がってくる。この箱の中にヘッドホン本体だけでなくヘッドホンケーブルも巻いて入れるような形になっていて、ケーブルのためのスペースがある。同時に、右側にある石英ガラスで包まれた二列、計8本の真空管(ECC803sと思われる)がせり上がってくる。さらに正面のボリュウムつまみまで飛び出てくる。こういう動きのあるギミックを持つオーディオ機材はほとんど見たことが無い。とりあえず、こんなギミックはオーディオとして本当に必要なのだろうか。音質には良いことはあまり無さそうに私には見える。特に真空管は適切に固定されてないと音が濁るから、このモーターによる演出はオミットしたらどうか。
また真空管を空気の振動から保護するという考え方は先代を受け継いでおり、先代がスリットの入った金属製ケースを採用したのに対して、今回は石英ガラスの管でおおってある。音にどういう影響があるにしても、この保護ガラスで覆われた真空管の見せ方はHE-1の目をひく特徴であることは間違いない。
なお、今のところ、ヘッドホンを聞く場合は収納ボックスの蓋は開けっ放しになる。ジャックが収納ボックスの中にあるからだ。これは外見上、望ましくない。どうも安心してリスニングに没頭できない。開けたものは閉めなさいと教育されて育った日本人は、この態勢はどうにもいたたまれない。ケーブルを蓋とケースの間に作った隙間から外へ出せるようにすれば、蓋は閉めることができるはずなので、なんとかして欲しい。またこの蓋は現時点では手で閉めることはできないとのことだった。つまり、電動で開け閉めするしかないのである。逆に言えば、開いている状態で無理やり閉めようとする力が加わった場合、壊れる可能性がある。
入力は光、同軸、USB2.0のデジタルとXLRとRCAのアナログインがある。端子の形状は普通のもので特殊なパーツは使われていない。
出力はヘッドホンアウト専用端子一個だけではない。もう一つのヘッドホン出力端子とXLRとRCAのアナログアウトがある。つまり二つのヘッドホンを同時にドライブする、アナログプリ、あるいはDACプリとして使う、そのようなことも想定されているようだ。
なおこのヘッドホンの端子はかなり特殊で、全く独自、互換性のないもののようだった。

正面に見える、真鍮にシルバーのクロームメッキを施したノブ4個については、ボリュウムノブ(電源が入るとLEDが点灯)、インプットセレクター、アウトプットセレクター、クロスフィールド用(現時点では機能していない)となる。ボリュウムの感触は可もなく不可もないといったところで、エソテリックやアキュフェーズなどで使われる、回転の感触をよくするための仕掛けはなさそうだ。パーツもごく普通のものだろう。これでいいのか?600万だよ。もちろんリモコンはついていない。これも600万のものとしてどうなのか?
内部の写真では、これはDAC付きの真空管式ヘッドホンアンプである。Sforzatoなどの高性能DACで採用例の多いESS9018sや英国XMOSのチップが見える。このHPAの内部はデジタル部と左右チャンネルそれぞれ4本のECC803sを使用したアナログアンプ部に分けられる。アナログアンプ部は真空管とソリッドステートのハイブリッド構成であるとされているが、DAC部と同じく回路構成の詳細は非公開である。このシステムでは、ヘッドホン側にもHPAからの給電で動くアンプが内蔵されているのが新しい。どういう仕組みになっているのか?よく分からないが、二段構えで増幅を行い、最終増幅はダイアフラムの直近で行いたいということだろう。こういうヘッドホンシステムは初めてではないか。
DACについて見ていると、写真にクロックのパーツなども写っているが、使用部品はありふれたものである。この写真からすると、搭載されたDACについては600万円のクラスの機材としては貧弱なものではないか。こうなると、高級なDACやアナログプレーヤーシステムを繋いで、アナログ入力で楽しむのがこのアンプの使い方のメインということになりそうだ。
なお、今回はエソテリックの中級クラスのSACDプレーヤーのバランス出力をそのままHE-1につないだだけの試聴である。DAC部は使っていない。SACDは聞かなかったし、当然ハイレゾファイルなども試せていない。インタコも電源ケーブルも安価な市販品である。
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ヘッドホン HE1060について:
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これは素晴らしい形をした静電型ヘッドホンである。この楕円形というかオーバル型のシルバーハウジングとブラックのハチの巣グリルの対比が美しい。奥には金色の網目が見える。これは金を蒸着させたセラミック電極であり、そのさらに奥にはプラチナを蒸着させたダイアフラムがある。音を聞く前から惚れ込んでしまうほど美しいサウンドメカニクス。これはまるでオーバーテクノロジーで作られた未来の道具、オーパーツのようだ。やはりSennheiserはヘッドホンメーカーなんだ。これなら200万円とかで単売されても、ドライブできるアンプがあれば買ってしまいそうだ。ハウジングは複雑な楕円形のアルミ削り出しのものであり、SR009を軽く上回る美しい造作である。枠の後側に入ったヒートシンクのプリーツが美しい。
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この枠の中にアンプが内蔵されている。セミアクティブタイプとでも言おうか。ヘッドホンケーブルを介さず、ヘッドホン内部のアンプでダイアフラムを動かすという考えもまた素晴らしい。こうすればエネルギーロスは少ないだろう。アンプを内蔵しているため少し大きいし、やや重いのだが、LCD4に比べればずっと軽く、装着もしやすい。(重たさ、大きさも現時点で非公開)さすがに良くできている。
イヤーパッドはアレルギーレスを謳う特殊なベロアやマイクロファイバーが駆使されている。表面の感触はサラッとしていて、必要以上にフカフカしていない。ヘッドバンドは当然長さの調節ができ、頭頂にあたる部分
は大型のクッションがあり、力を分散するので、おそらく痛くはならない。
ヘッドホンケーブルはツイストしたやや太いもので、3mある。STAXのケーブルなどに比べてしなやかではない。ただ端子は8極ありそうなので、STAXのようなキシメンケーブルだと太くなりすぎるのかもしれない。これは銀メッキのOFCケーブルであるという。取り回しはすごく悪いわけでもないが、このケーブルが本当にいいのかは私には分からなかった。今回の祭りではブリスオーディオをはじめてとして、PAD、キンバーなどの各社から多くのリケーブルが出品されていて、驚きの連続だったが、これを別なケーブルに付け替えたらどうなるのか興味はある。例えばブリスのACケーブルはいい思い出がないが、ヘッドホンケーブルはどうなのか。HE1060ではヘッドホンから端子なしでケーブルは直出しされているので、リケーブルできるような仕様ではないにしても、替えて試してみたい。
ともあれ、これから先は、こういうヘッドホンが欲しい。このヘッドホンの造りはブレークスルーである。少なくともこの技術をフィードバックしたヘッドホンは必ず作ってほしい。


The sound 

虚ろになった貝に耳をあてると、海の波音が聞こえるというが、ヘッドホンオーディオにもそういう側面がある。ヘッドホンシステムの姿態とそこから聞こえる音に備わった物語が、イメージを喚起して、聞こえてくる音楽を美しくしてくれることがある。
HE-1の外見そのものは確かに美しい。特にヘッドホン部の、その優美な形は海辺で拾った貝のように、私のインスピレーションを呼び起こした。
しかし、その音はそういうロマンチックなイメージとは程遠いものだった。

このHE-1が静電型であることを考えれば、とりあえずSR009を純正の真空管式アンプでドライブした音を予想する方も多いかもしれない。
それは完全にハズレ。
これは、かなりしっかりとした輪郭をもつ明瞭なサウンドである。SR009よりもずっとくっきりしている。アンプがヘッドホン側にもあると、こういう音になるのか。再生帯域は8Hz~100kHzとかなり低いところまで対応すると謳っているが、実際に、かなりなワイドレンジ感があり、高域、中域、低域とも非常に高い解像度を持つ。すなわち音数はとても多く感じた。細かい音をつぶさに聞けるヘッドホンの利点が十二分に発揮される。ここらへんは十分にドライブされたLCD-4を上回るところだ。低域の伸びもLCD-4やSR009+SRM-007tAを軽く上回る。ただし量感はなくスレンダーな音だ。音の歪みは極度に少なく、ストレートかつピュアな音。THD0.01は伊達ではない。音抜けがとてもいいせいか、若干冷たく乾いた音であり、冷静に音楽を観察するような醒めたまなざしを感じる。例えばOJIのブースにBDI-DC24B G LimitedというHPA(実質的にOJIの集大成と言うべき傑作だ)があったが、あのように豊かな潤いや、音楽的な躍動を感じる音ではない。また、音圧レベルは100dBとされているが、比較的簡単に大きな音が取れるのは魅力的である。そして音量を上げても全くうるさくならない。なお、HE1060はオープン型の中のオープン型という感じで音量をおそらく大して上げなくとも、音漏れはかなりなものだ。周りが静かだったからだけではない。これなら、あの魅力的で個性的なKURADAのオープン型とあまり変わらない音漏れではないか。
このシステムの音は真空管を多用しているので、美音系ではないかと予測していたが、違っていた。もっとカチッとしてクール、折り目正しい真面目な音である。加えて言えば普通の佇まいを持つ音で、クオリティの高さはひけらかさない。

より詳しく突っ込んだメモを急いで取ってゆく。試聴時間は短い。
SR009で聞かれるような音の透明感はやや少ない。透き通った音場の見通しはかなり良いのだが、音像に透き通るような薄さはない。サウンドステージの左右の広がりはチャンネルセパレーションの良さを感じるにもかかわらず意外に狭かった。このような究極の開放型のシステムを目指すようなモノならもっと広くていいはずだと思う。実際、THA2で聞くHD800よりも狭く感じる。(HE-1の製品版はクロスフィールドを効かせることができるようなので、この辺は変わる可能性がある。)
そのかわり音場の透明感のようなものはかなりあるように感じた。音の見通しは凄くいいのである。音のヌケがいい。この部分は当たり前のようにLCD-4なんかを超えていて、いままで聞いたもので最高である。
一方、残留雑音(S/N)については不利に感じた。音場の透明感はあるのに、である。これはこのHE-1の音場の透明感が人工的なものであることを意味する。真空管を使ったせいなのだろうか、背景にかすかに静けさを汚すものの存在を感じた。手持ちのRe Leaf E1xの方が若干SNはいい。
また音の過渡特性(トランジェント)については、かなり正確ではないかと思った。実物の楽器やボーカルの音声の立ち上がり・立下りのスピード感にとても近い。自分のシステムで苦労して実現していることを、あっけなくやってのけている感じがある。同時にハモってほしいところ、音が溶け合ってほしいところできちんとハモることも確認した。
ただ、ここでの音のスピード感や分離感、ハーモニクスなどについては、他のハイエンドヘッドホンシステムでも苦労すれば実現可能なレベルだと思われた。つまりそこらへんはハイエンドヘッドホンの世界の中でも非凡だとまでは言えない。
実際、各パート、楽器の分離はもっとあってよいと思った瞬間もある。例えばHE-1はHD800sで聞くGOLDMUNDのTHA2(USB接続)には、音の分離では及ばない。(今回のムンドのデモで活躍していたBMCの特殊なUSBケーブル、カルロス カンダイアスの開発したpure USB 1のせいもあるか)
それにHE-1は大きい音と小さい音の階調・濃淡が細かく分かるシステムではあるが、その音のグラデーションはまだまだ単調である。さらに倍音成分の質感やその存在感と透明性の両立も今一つかもしれない。倍音成分がもっと綺麗に広がってほしい。これらもほぼ同時に聞いたTHA2+HD800sに負けるし、Re Leaf E1+HD800などにも劣る。これは主に送り出しやアンプの能力に問題があるのかもしれない。
対して、定位の良さ、位相の正確さ、タイミングの正確さなどについては現時点では世界トップクラスであろう。とりあえず正しい音がしっかりと止まって聞こえるというシステムであり、私の使っているものも含めて、ハイエンドヘッドホンシステムは少し脚色が強いと思える。今聞きながら書いている、私のシステムについて言えば、低域のインパクトや量感が多きすぎる、音が近すぎるのかもしれない。
なお、出音全体にわたるような音楽性の発露は今回はあまり感じなかった。音楽の内容に合わせて音の躍動感やスピード感を自動的にコントロールする能力はこのシステムにはないのだろう。私のNAGRA HD DAC+Re Leaf E1x+HD650 Golden era MeisterKlasse で聞かれる音楽性はここにはない。本当に真空管を使ったアンプなのかと疑いたくなるほどプラスαのない生真面目な音だ。思わずアキュの音を思い出したほどだ。Accuphaseのような中毒性が少ない健全な音である。確かによく聞くと真空管らしいふくらみやしなやかさ、温かみをある優しい音調をある程度は聴けるのだが、そこらへんは決して前面には出てこない。これは最終段がヘッドホンに内蔵されたソリッドステートアンプだからだろうか。それともなにか意図的にそういう方向に音を振ったのだろうか。

HE-1では音楽のジャンル、音楽の製作された時代ごとの向き・不向きはあまりないと思うが、このままの音作りで製品版まで行くとしたら、スペイシーな表現を必要とするアルバム、例えばRoxy musicのAVALONなどはつまらないだろう。
HE-1はつまらない音楽はつまらなく、録音の良い音は良く聞こえるという具合に、ソースへの忠実性の高いシステムであり、NordostのODINのように払った分だけの強烈なドーピング効果を期待する方にはお薦めできない。
音作りの傾向としては、ガチガチのプロサウンド(客観性重視、モニター的)ではないが、BGM的にすごくリラックスして聞ける呑気な音でもない。音に対してリスナーが集中することを求めているような気もするが、その求心力は緩やかなものである気がする。

この音の擬人化するとすれば、イケメンだが少々ゴツいドイツ人の執事のようなものか。基本的には主人に対して受け身の姿勢できっちりと仕事をする。それは、かなり高級な仕事ではある。しかし、あの黒執事のようなものとは違う。時には主人の予想を超える見事なパフォーマンスをしたり、ウィットに富んだ会話を促したり、時には主人を脅かすほどの魔を感じさせたりもする、スーパーハイエンドオーディオのレトリックにはまだ届いていない。

ディープな解釈をすると、このHE-1の今の音作りには一定以上の生々しさをあえて避けるというか、現実との間に絶妙な距離感を求めるという姿勢が見え隠れする。これはおそらく正しい音だが、正しい形に微妙に整えられ、生の姿とは違うのだ。それが如何に憧れているものであろうと、心の中にズカズカ上り込んでくることを望まないということだろうか。本当の現実ではなく、わずかにリアルが欠如したほうが、多くの人に受け入れやすいと思っているのだろうか。そうだとしたら、これはコアなヘッドフォニアが使うには向いていないのかもしれない。彼らは一線を超えて、オーディオの神髄、あるいは音のリアルに迫ることを常に求めている。もし私がこれを使うなら電源ケーブルや特注のリケーブル、送り出しの強化できっちり調教する。これでは600万のシステムとしては、無味乾燥じゃないか。優れたヘッドホンを生かし切ってないじゃないか。

また、オーディオというのは、数値的なクオリティの競争ではなく、クオリティ「感」の競争であると誰かが言っていたのも想い起こされる。確かにHE-1は外見の豪華さや個性的なギミックなど、気分を高めるカラクリが多く、クオリティ感は最高だ。肝心な音も、もちろんかなり高いレベルだ。しかし価格で600万、再生帯域は8Hz~100kHz、THD0.01、ダイアフラムをヘッドホン本体に仕込んだアンプでドライブしようという最強の静電型システムとしたら、聴感上のクォリティは正直もっと欲しい。例えば600万円の予算で、好きな送り出し、好きなアンプとヘッドホン、ケーブルを自由に選べれば、このシステムに近いサウンドを生み出すことが必ずしも不可能とは思えない。少なくとも違う方向性なら、同じグレードのものを作れるだろう。この試聴で注意すべき点があるとしたら、今回は上流にハイエンドDACを持ってきていないというところだ。MSB Select DACをこのシステムの上流にもってこようとしている外国のマニアは既に存在する。確かに、そこまでしないとHE-1の真価は分からないかもしれない。


Summary

ダメ出しはそこらへんにして、このHE-1のようなモノは未だかつて世界に存在したことがなかったことは認める。ヘッドホンの世界もここまできたのだな、という感慨がある。もう随分前の話だが、GEM-1が出た時、私は時代が変わるのを感じた。GEM-1の持つメカニカルな美学、その音のオーラから私は野心の匂いを感じ取った。時代を変えようとする野心である。そしてここにゼンハイザーから全世界に提示された美しい作品の内容にも、あれとはまた異なる次元の野心を感じた。まだまだ粗削りな野心ではあるが、それはリスペクトすべきものだ。その意気や良し。HE-1のステータスを高く吊り上げることで、ヘッドホンオーディオ全体の地位をも高めることを意図したか。あるいは自分の会社の価値自体をこの製品の開発を通して再定義することを狙ったか。

今やヘッドホン・イヤホンはオーディオの中に独立した勢力圏を築いている。その独特のメカニカルビューティや、スピーカーでは決して聞けないディテールに満ち満ちた音質、そして多くの音楽ソースが実際にはスピーカーではなく、圧倒的にイヤホンやヘッドホンで聞かれるという事実、ファッションとしてのイヤホン・ヘッドホンの隆盛などが合わさり、今、一つのカルチャーとしての存在感を示しつつある。

オーディオには本来、勝敗なんてものはないが、人の性としてそういう見方は常にしてしまうものだ。だが、この期に及んでは、スピーカーが良いとか、ヘッドホンの方が良いとか、そんな比較はナンセンスである。オーディオファイルは意味のないこだわりを捨て、自らが置かれたシュチュエーションと、その嗜好に従って最適なシステムを選ぶべきだ。スピーカーでも、ヘッドホンでもそれぞれにいい音で楽しめる時がきた。HE-1の登場によって時代は変わり、ハイエンドオーディオの選択肢をスピーカーオーディオが独占していた時代は過去のものとなった。

戦国時代に日本という国のまとまりを明確にイメージできていた人間はごく少数であったという記述をこの前、本で読んだ。現代では、日本がこういう国だというのは当たり前になっているが、群雄割拠していた、あの時代にそれがイメージできていたのは、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの少数の大名とその部下のみだった。
一方、話は飛躍する(というか、随分スケールの小さい方へ飛ぶようだが)、
ヘッドホンの世界がこの先どうなっていくか、予言者のようにイメージできている人間などいるのだろうか?私はそんな人はいないと思う。ただ、未来がどうなっていくのかは知らないが、自分の願望としてどうなって行ってほしいかをイメージできている人間は居ると思う。このHE-1を作った人はそういう人の中で特にビッグなイメージを持つ人々なのだろう。彼らはその意味では戦国時代の英雄の一人のようなものなのかもしれない。
とにかく、このHE-1を聞き終わって思ったのは、製品を作る側のイメージのレベルが高ければ高いほど、優れて革新的な製品が出来上がる可能性が高いということだ。

とはいえ、私見では、今回のHE-1の音質は現時点では間違いなくトップクラス内ではあるが、これがトップではない。現代の最高のヘッドホン関連機材を駆使すれば、これよりいい音を聞くことは不可能ではない。これはOne of themである。それは会場をくまなく回って、真剣に音を聞くだけで分かることだ。つまりゼンハイザーの技術者よりも高いヘッドホンオーディオのイメージを持つ者がこの世界には居るということになる・・・・・・。

今、HE-1を単なる富裕層向けの豪華なだけのガジェットと直感的に断じても、それはあながち間違いではないと思う。ただ、それは正しいけれど一面的な見方でしかない。いろいろ言いたいことはあっても、このサウンドに接してみれば、やはりこのSennheiser HE-1の登場は、ヘッドホンというガジェットの概念・イメージを高く高く飛躍させるエポックメイキングな出来事であるとしか、私には思えないのだ。

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by pansakuu | 2016-05-03 17:44 | オーディオ機器