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NAGRA HD DACと暮らす:子供でありつづけるために

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子供と動物はずいぶんよく似ています。どちらも自然に近いのです。
プラトン


ようやくNAGRA HD DACと毎日を過ごす権利を得た。
もうかなり短くなってきたオーディオのWATEDリストの筆頭に長らく居座っていた機材だが、ついに射落とすことができた。

初めて買ったDACはWadiaの27ixだったと思う。あれから長い月日が流れたが、いったいどれくらいのDAC・デジタルプレーヤーを聞いたか、もう自分でも数えきれない。その中で最も音楽性で優れたDACが、このNAGRA HD DACであることに疑問はない。もちろん、絶対的な性能では、MSBのSelect DACが現代のデジタルオーディオに君臨する存在であるが、音を楽しく聞かせ、人を感動させる能力ならHD DACは彼に勝るとも劣らない力を持つ。

それにしても、この昔ながらのモデュロメーターの採用にはグッとくるものがある。音楽を聞きながら、音楽のリズムとメロディの動きに合わせ、細かくふれるメーターを眺める快感に酔いしれる。暖色系のライトアップも堪らない。こういう快感を与えてくれるDACは他にはない。これぞNAGRA。
こうして見ていると、音楽が生きていて、なんとかこうして今日を生き残った私がそれを聞いている、そういう情景が出来上がる気がする。その証が、このメーターの灯りの中でふれている針の動き、そのものであるような気分になる。
眺めて楽しいDACというのは珍しいが、これはそのひとつだろう。ずっと欲しかったものをプレゼントされた子供みたいに、有頂天になっている私がここにいる。
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数か月前に自宅で初めて聞いた夜に導入は決めていたが、悩みどころがあった。
パワーサプライをどうするか。
このDACはおそらく世界で唯一、デジタルセクションとアナログ出力回路の電源が全く別なのである。よくある内部で分かれているタイプではない。コンセントから別なのである。つまりNAGRA製品に共通する強化電源であるMPSを使用しない場合は、二本の電源ケーブルが必要になるDACだ。二つのアルミ製のアダプターが付属する。以前の試聴ではMPSを使った方が、音がよかったのであるが、その時、MPSの対照として二電源形式を取った場合に使った二本の電源ケーブルは全くの普及品で、オーディオ用ではなかった。一方のMPSにはJormaのAC LANDAを使ってしまったのである。これは比較の仕方が上手くなかった。
一方、NAGRA本体はMPSの使用を推奨しているが、あれは小さくはない。置く場所を作るのが面倒だ。
一応、ヘッドホンアンプとして他に持って行って聞く予定もあるので、小さな通常のパワーサプライも欲しい。また逆に本気で使うならデジタル部とアナログ部にそれぞれ別なMPSを使うのが最高かもしれない。それだとさらに置きづらいが。さらにMPSは半分バッテリー電源にするオプションも選べる。いったいどうしたらいいのか?目移りしてしまう。

結局、まずはMPSではなく、通常の電源を私は選択した。届いてみると、これはいい。MPSよりもコンパクトだ。持ち運びはこちらの方がやや有利かもしれない。デジタル部、アナログ部ごとに電源ケーブルを変えて、音質を調整することもできる。私の方ではAC LANDAのプラグのメッキを変えたバリエーションをいくつか用意できるので、好みの組み合わせを探れるかもしれない。ひとまず、この状態で遊んでみよう。MPSは後でもいい。

HD DACについては細かいインプレを既に書いたし、MSB Select DACに関するインプレの中で、単体DACのレビューはしばらく書かないとも言ったから、音質についてはあまり多くは語るべきでもないかもしれない。スピーカーで聞くHD DACのサウンドの凄さや、ヘッドホンアウトの音の良さについては、以前の内容を参照してもらえばいいと思う。
今、ここで述べるべきはRe leaf E1xと繋いだ時のヘッドホンサウンドについてだろう。
(以前、HD DACがここに来た時にはRe Leaf E1xは無かった。)
組み合わせるヘッドホンはLCD-4でも良かったのだが、あれは公平感を著しく欠く、特殊な音だ。いつも使っているHD650 Golden era meister klasseが評価基準としては良かろうと思う。

このセットで、まず感じるのは音楽性の高さだ。
NAGRA HD DACを通すと、何と言ったらよいのだろう、音楽が覚醒するのだ。生き生きした抑揚をつけて音楽が鳴ってくれる。これは感情的であり、感傷的な音と言ってもよい。書で言えば顔 真卿の祭姪文稿のようなものだ。人間の気持ちが露出するようなプレゼンの仕方なのだ。いわゆるフラットというか、平板で公平な鳴り方には全然ならない。音楽に込められた演奏者や作曲者の感興が、つぶさに感じ取れるようになっている。音楽の本当のコアの部分を曝け出すと言ってもよい。この音楽的な抑揚の振幅の広さと速さ、そして強さは、並みのヘッドホンアンプでは受け止めきれまい。だから一般的に、このDACはスピーカーリスニングに使うべきものだろう。例外的にE1クラスの機材まで行けば、このDACの音を受け止めることができるということに過ぎない。あくまでこの使い方は例外なのである。
もちろんHD DACに直にヘッドホンを挿して音楽を聞くこともできる。この方式でも、E1xの音さえ聞かなければ、十分過ぎるほどいい音であるし、実際、諸外国ではこのHD DAC直挿しのヘッドホンリスニングに賞賛の声があがっている。内部でゲインも変えられるので、様々なヘッドホンにも対応する。しかし、この接続だと、E1xを介した時に比べて、低域のニュアンスが弱かったり、全体に淡白な鳴り方をするように私は思う。
やはり、E1xほど優れたHPAがあるなら、それを使った方がいい。
これはE1Xと合わせて本当に、その内蔵のDACを超えると思えた初めての組み合わせである。
だが、この合計価格は・・・・・。インタコとMPSをそろえるとSennheiser HE-1と大差なくなってきた。
今度やる予定の、聞き比べが楽しみだ。

さらに感じるのは真空管を使ったアナログ出力回路の音の良さである。これは他のほとんどのDACで得られたことのない、独特の聞き味の良さ、力強さ、音のうねりを生むようだ。そして他のDACではありえないと思わせるほどの低域の量感の豊かさ、他のハイエンドDACの如く各パートを分離しすぎず、絶妙にブレンドして聞かせること、生々しいボーカリストの口唇の動きのニュアンス、奏者どうしのインタープレイの表現の見事さに驚く。妙にリアルな実在感はあるのに、どうも絵空事のような、よそよそしく、シュールな音が聞こえてくるDACもあるが、HD DACは、それとは正反対の態度を持つように聞こえる。これらはもちろんアンドレアス コッチの開発したコンパクトのDACモジュールの能力に負うところも大きいのかもしれないが、出力に真空管を一味加えることで初めて成し遂げられるもののような気がする。MPS-5ではこの音は出なかった。この音の良さは今まで聞いてきた多くの真空管アンプで感じてきたことに通じる部分が多いということもある。
惜しいことに、これから発売されるNagraのClassicシリーズのDACについてはボリュウムやヘッドホンアンプは省かれ、真空管を出力回路に用いないという。しかも電源は一つになる。コスト削減のためというが、それでも価格は200万近くになるらしい。それなら絶対にHDシリーズを買うべきだろうと思った。
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MacやPCをトランスポートにしてヘッドホンで音楽を聞いていると、一つのアルバムを通しで聞いたりすることはおろか、一曲を通しで聞くことすら、いつも必ずやるとは言えない。何故だろう、こういうデジタルシステムだと、どんどん曲を替えて聞きたくなるものだ。アナログレコードを聞いている時はそんなことがなく、少なくとも、片面を一度に聞き通すのが普通なのに。
しかし、NAGRA HD DACでは例外的にデジタルでも、アナログのような聞き方をしてしまう。曲を通しで聞き、アルバムを通しで聞いてしまう。そういう流れになってしまうのだ。またプレイリストを当然作るからアルバムをまたいで、シームレスに曲が連なって流れてゆくことになる。これはアナログでは決してできないことだ。どうしてもレコードをかけかえなくてはならない。
このDACの聞き味の良さ、オーディオとしての性能の高さ、音の生々しさ、音圧の力強さを呆然として聞いていると、時の経つのを忘れる。曲と曲は間の静寂を介して、途切れることなく繋がり、音楽が千変万化しながら、どこまでも続いていくような錯覚を生む。
夕飯の後にコーヒーを挽いてから聞き始めて、本を読んだり、文章を書いたりしながら、ずうーっとHD DACに聞き入っていると、いつのまにか次の日の朝の8時になっている。時間経過が全く感じられないリスニング。音楽を聴くことを全然やめられない。いつまでも聞いてしまう。だがPerseusと違って聞き疲れはある。音圧はあるし、低域の量感も豊かだから。だが、それは心地よい疲れだし、余韻に溢れるものでもある。
異性とベッドで過ごす濃密な時間と、その後の長い余韻のようだと誰かが言う。
これはセクシーなリスニングなのである。

とはいえNAGRA HD DACが来て、私が満足したというわけでもない。
Re Leaf E1、CHORD HD DAC、GOLDMUND THA2、Fostex HP-V8、Merging NADAC、OJI BDI-DC 24A、NAGRA HD DAC、マス工房 Model394、Hifiman Shangri La・・・そしてSennheiser HE-1。
此処へ来て、市場には高い音質を誇るアンプやDACなどがかなり出揃ってきている。
手持ちの機材と、それらとの組み合わせはどんな音なのか、興味は尽きない。
このようなハイエンドなヘッドホンアンプあるいはヘッドホンアウトのあるコンパクトなDACを並べ、適切な電源ケーブル・タップやインターコネクトケーブル、ボード・インシュレーターを用いて完璧にセットアップし、自分のヘッドホンで聞く機会なんぞは実際はほとんどない。
それは一つのメーカー、一つの代理店、販売店だけでは最高にドレスアップしたシステム一式をそろえることができないからだ。祭りで聞いても、音の良さの予感しか感じることができない場合が多い。メーカー、代理店ごとに取扱い製品のジャンルが限られているため、トータルシステムとしての提案ができていない。ヘッドホンシステムはあくまで多くの機材の集合体であるから、それではいい音が聴けない。そもそも、代理店の多くが、ヘッドホンが大好きで祭りに出展しているとは思えない。祭りにやって来る若者たちと、それを受け止める側との間に温度差を感じることは少なくない。そういう彼らに高度なセッテイングを求めても無理があると思う。

ところで、3月に秋葉原のオーディオ店で、最高峰の機材を集めてセッティングしたヘッドホンシステムを聞く会があったが、どうも借りてきた猫みたいな、つまらない音ばかりで辟易した覚えがある。あれは何故ダメだったのか?機材は良かったのに。電源や機材の接続方式、置き方などの細かい点に難があったのかもしれない。あそこにあったHP-V8にしてもTHA2ももっと良い音で鳴っているのを聞いたことがあるし。
やはり、その機材の取り扱いを熟知したオーナーが十分な時間をかけてセッテイングしないと、いいヘッドホンサウンドは聞けないのだろう。
そうは言っても上記の機材はほぼ全て持ち運び可能なのだから、これらを持ち寄ってオフ会をやってみたい誘惑は依然としてある。極論を言えばHP-V8だって移動は可能なのだから。ラックと椅子の組が3つぐらい置けるスペース。各々にコンセントが一つ、優れた4口タップをオーディオグレードの電源ケーブルで接続できる電源環境。人脈とやる気、そして数日間の暇。そんなものが万策堂にあるわけもない。
いずれにしろ、私は私以外の個人がどんなセッテイングでヘッドホンを聞いているのか、そしてそれらを同一の電源環境に置いて比較したら、どういう差が出るのかに、いつも興味がある。

余談だが、
この前、たまたま暇だったので、映画館に近頃話題のガールズパンツァーを見に行こうとしたら、小学生にキモいと言われてしまった。
昔のことだが、私個人は戦車自体にはかなり入れ込んでいたことがある。例えばホビージャパンに連載されていた黒騎士物語という漫画が好きでよく読んでいた。私の戦車観はあの漫画によるところが大きい。また以前、陸上自衛隊にいた人が職場にいて、毎日の昼休みに戦車やその他の兵器の話を二人でしていたこともある。
そういう私の知識の中での戦車というものは、極めて暴力的で残酷、非人間的な兵器なのだが、ガールズパンツァーという作品で注目すべきは、非力で可憐な少女だけで、この死と恐怖の機械を操るという思い切った設定である。
つまり、これは今の日本で流行る、独身男性向けのアイドル映画という側面がある。
その一方で、家族持ちの大人の男は、こういうアイドルに、しかも実際に存在しない二次元のアイドルにうつつを抜かさないものだという古い常識が、今の小学生にさえ浸透している。日本は面白い国だ。

もちろん、小学生にそうまで言われようとも、初志貫徹で私はこの映画を見に行った。
逆にこういうのを見に行かなくなったら、そこで好奇心が終わるんじゃないかとも思うので。
そこで私は、アニメの戦車の細かく行き届いた戦闘描写を眺め、エルンスト・フォン・バウアー大尉の不在を確認し、そして眼鏡をかけた若い男ばかりの観客の顔を眺めて、現代日本の栄光と悲惨、そして奇妙を肌で感じた。
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帰り道の渋谷のオンザコーナーでコーヒーを飲みつつ考えた。
見ようによっては、オーディオも、かなりキモい趣味だなと。いい年して、役にもたたない、女性にもモテない、スピーカーオーディオに比べてさえ、せせこましいヘッドホンオーディオに大金を払うなんてキモい。(そんなことを言ったら趣味は全部キモいか?)
「キモい」という言葉は、「気持ち悪い」と言うのがカドが立つので末尾を削っただけらしい。「イジる」が「イジメる」という言葉を短縮してマイルドにしたものであるのと同じだ。
例えば一般人は、ヘッドホン祭りなんて、所詮白い目で見ている。あくまで「気持ちが悪い」ものなのだ。しかし、私に言わせれば、これは「気持ちがイイ」趣味だ。キモいと言われようとも一向に平気である。気持ちがいいを短くして、キモいということだと解釈しているから。

つまり、こうして生きている限りは、自分の中から湧き出てくる自然な欲望に出来るだけ忠実でありたいということだろう。
家族に対してカッコ悪くても、コソコソしないで映画は見るし、逆に家族に隠れてコソコソとDACも買うし。こういう欲しいものが欲しいと思って実行してしまう、無邪気な自分を見るたびに、自分はまだ子供だなと知って安心する。もう私は否応なく、社会的には大人として扱われるような歳と立場になってしまったが、いつまでも子供でありたいと願いつづけている。それは変わらない。傍から見たら愚かなことに対して有頂天になって、周りが見えなくなってしまう人で俺はありたいんだ。ただ、そういう行為を、ある程度は意識的に強行しないと、子供になれないほどの歳になってしまったのが怖いが。

私は、子供であり続けるために、
NAGRA HD DACと暮らすことを選んだのかもしれない。



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by pansakuu | 2016-04-15 11:54 | オーディオ機器