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Audio Note Overture PM2 プリメインアンプの私的インプレッション: 天使は遅れて降りてくる

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お前が出会う災いはすべて、過去にお前がおろそかにした時間の報いだ
by ナポレオン ボナパルト



Introduction

音楽を聞くということと、
オーディオをやるということには隔たりがあるのではないか?
そういう疑問を持ったことは一度や二度ではありません。
最近、かなり高価になりますが、極上のサウンドを聞かせるDACに出会ってから、そればかり考えています。
つまり、音楽を聞くということに対して、自分にとって丁度良い価格と規模のオーディオの装置とはどれほどのものなのかと、常に自分に問いながらオーディオを押し進めるということでしょうか。とにかく闇雲に高級路線に走るべきじゃない。時にはダウングレードしたようにさえ見える、熟慮の末の方向転換もアリでしょうね。
なにしろ、これほど多くの選択肢がある時代です。システムの規模・グレードを気軽に音楽を聞くというイージーな気分から大きな隔たりを感じない程度に収めることは可能でしょう。もはや巨大なモンスターシステム多くには、私はエスプリを感じていない。あんなものは癒されるどころか、かえって心の負担かも。

では、オーディオの散財が全くなくなるのかと言うと、そうでもない。だから、私は今日もOverture PM2 プリメインアンプを聞きに、風雨を衝いて出掛けたのでしょう。
(写真は各種HPより拝借いたしました。ありがとうございました。)

Exterior and feeling

ついこの間のことですが、日本で初めて販売店を設けたAudio Note。もう海外では十年以上前からスーパーハイエンドの真空管アンプのメーカーとして安定した地位を得ていましたが、日本では2015年末、やっと普通に店頭試聴でき、普通に買えるアンプとなりました。それにしても、これほどの音質を持ちながら、日本でのデビューが遅かったことは残念ですね。

そのAudio Noteの“序曲”すなわちエントリーモデルである、Overture PM2プリメインアンプのやや大柄で地味な筐体を眼の前にしても、外観自体には特に感じるところはありません。デザインされた痕跡がほとんど感じられない、昭和的というか、とても昔風のシンプルな外観です。アルミのフロントパネルと黒い板金のシャーシの組み合わせには特別な仕掛けやディテールが無い。外見で前のモデルであるOvertureと違うのはメインスイッチがロータリーからプッシュボタンに変わったことくらいで、ほとんど変化はないようです。ボリュウムやセレクターのフィーリングにも特に感動はありません。
私はフロントパネルやシャーシにもっと立体的なアクセントをつけたり、表示のフォントのデザイン・レイアウトに凝ってみたりすることは、この価格帯のアンプとして、もっと必要だと思います。このクラスのコンシュマーオーディオ機材は音を出していない時にも美しい存在感をインテリアの中で醸し出す必要がありますので。

また、多機能性はこのアンプにはありません。例えばアキュフェーズのE600に見られるようなコンペンセーター、ヘッドホン端子、出力電源モニター、トーンコントロール、プリパワー分離機能等は全くついておりません。
そういう無駄(?)を省くことで音質を磨き、コストパフォーマンスを稼ぐ。そういう方針を感じさせます。これはあまり現代的な考え方ではないのですが、一つの見識だと思います。

このアンプは外見こそ素っ気ないのですが、中身には恐ろしいほどの拘りが発揮されています。内部の写真を眺めれば、現代の他のアンプたちとはかなり異なる様相に目を見張ることになります。
自社製のオリジナルパーツである銀箔コンデンサー、出力トランス、シルク巻きの銀線が目に飛び込んできます。これらは真鍮製のピンを立てた、他のメーカーではほとんど採用のない特別な基板にマウントされており、それらを結ぶ線材は、あらかじめ立体的に形を作り上げた後、回路に組み込まれるという凝りようです。出来上がった回路はまるで精緻な手工芸品のようであり、銅製のサブシャーシ、ゆとりある巧みなパーツのレイアウトと合わせて、オリジナリティ溢れる内容です。こうなると市販パーツを集めて作るアンプとは格段に出音が違ってくることは想像に難くないのです。
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使用する真空管の趣味もいい。5極管EL34はKT88の中低域にある若干の荒々しさ、300Bの低域の弱さを避けたいと願う私の感性にうってつけの球かもしれません。この管の持つちょうどいい音の匙加減は優秀なオリジナルパーツや巧みな回路設計によりさらに高められているようです。管球式としては発熱も小さい方ですし。3極管シングルを得意とするAudio NoteとしてはEL34の採用は例外的なのですが、パッと音を聞いても、このメーカーのセパレートアンプと同じソニック シグネチュアーが得られています。
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今回の試聴ではAudio Note純正の純銀製RCAケーブル、スピーカーケーブルを使用しました。これを単体で貸し出してもらって聞いた経験と合わせて考えますと、以下に述べるような素晴らしい音質を得るには、これらの純正ケーブルが必須と思います。造りこまれた、特殊なケーブルの存在が、このサウンドに占める割合は決して少なくないはずです。加えて、このメーカーの純銀ケーブルは、現在のハイエンドケーブルの価格に照らせば、それほど高価ではありませんし、銀のクセっぽさはほとんど感じられないことも推薦する理由となるでしょう。


The sound 

試聴を始めると、極めて清澄な音場が優しく、しかし着実に眼前に広がって、リスニングルームの空気はいつの間にか入れ換わり、Audio Noteの透明感に支配されていました。
ここには広さこそ高級プリメインとしては標準的なものの、他社のアンプのそれとは明らかに異なる、クリアーかつ十分な奥行きを備えた音場があります。それほど広いサウンドステージではないのに、なぜこのような気持ちの良い開放感が得られるのか?思わずそういう質問が口をついて出るような快感に包まれます。これもやはり銀の使いこなしと関連があるのかもしれません。

とにかく、とても聴き味の良い音です。
音楽の導入部のメロディラインは煌びやかに、そしてスムースに先へ先へと伸びるようで、このアンプの歌心を感じます。滑らかで、順風のように聞き易いサウンドです。
トランジェントは素早く、キレの良い音ですが、キツさとは無縁。
基本は大人しく真面目で、優秀な物理特性を目指した音作りと聞けますが、声の内部にヒューマンな温もりを確かに感じます。温度感は微かに冷たさを感じる程度、女性の人肌というところ。真空管らしい艶やかさは前面には出ていませんが、それも内に含みます。
出音の端々には、神経質にならない程度のデリケートな繊細さが常にあって、音に高貴な印象を加えています。このノーブルな雰囲気も他では得難い。
また、音の純度が高く、音楽が自ずと心の襞に沁みこむ感覚が心地良いです。
渇きを感じた喉が、お気に入りのミネラルウォーターを飲み干すような爽快さ。
これもまたOverture PM2独特のフィーリングかもしれません。

ダイナミックレンジの広さや、周波数帯域の広さは優秀な管球式アンプに望まれるレベルであり、驚きはありません。定位感は良好で、音場内に明確に屹立する繊細な音像に揺らぎはほとんど感じられず、安心して音楽に浸ることができます。上位機に認められる圧倒的なゆとりの感覚よりも、溌刺としたフットワークの良さ・躍動感を意識させるサウンドですが、大人びた安定感が基礎としてあるので、広いジャンルの音楽をハイグレードな音で気軽に楽しむという用途に適しているように聞こえます。

一聴して大人しい音ですが、必要な時には十分に音楽の躍動感を引き出すだけのパワーが備わったアンプだとも思います。全ての楽器が一斉に鳴り出した時に力感の高まりに不足はなく、Octaveのアンプほどワイルドではありませんが申し分なくパワフルです。
中高域には銀という素材を信号系に多用したことの効能と見られる、一種の生々しさがあり、これはこのアンプメーカーの音の特徴を表しています。
中域の重荷にならない程度の密度感、風のように吹き抜ける低域もチャームポイントでしょうか。特に低域には緩さがなく、プリメインにしては比較的深いところまで軽々と出てきます。この低域の振る舞いの小気味良さも他のプリメインアンプでは、あまり聞いたことのないものです。

数値ではなく実際に聞いたSN感として、管球式アンプとしてはとても高いものがあり、深い静寂感が得られています。このアンプで奏でられる音楽の背景に漂う、キメ細かく清潔な静けさの質感。これはきっちりと銀線を使いこなした証拠であると私は見なします。繊細な音像に雑味がないのと同様に、音場にも天使のような穢れ無さが宿るところが、このアンプの美点となっています。静寂にも質感があるとは・・・。俄かには信じがたいでしょうが、ハイエンドオーディオの世界ではありうることです。

このアンプの音に浸っていると、時々、音楽の内容とこのアンプの音の個性が上手く溶け合うような感覚が垣間見えます。別な言い方をすれば、どのような音楽をも受け入れる懐の深さ感じさせる音なのです。
アンプ自らの個性を保ちながら発揮される、このような音の懐柔性は驚くべきでしょう。様々な音楽の音作りに呼応して、柔軟に対応しつつ我を通しすぎない習慣があるのでしょうか。どんな曲に含まれる、どのようなイメージでも、あくまで素直に表現しようとする優れた音楽性を感じます。

総じて、尋常ならざる音の実力と個性を兼ね備えるプリメインアンプと聞きました。
前モデルであるOvertureと比べると音のグレードが明らかに一段上です。
音の透明感や躍動感、表現の深さで差があり、前のモデルを持っておられる方には買い替えを強くお薦めします。さらにAudio Noteの現行の上位モデルと聴き比べても、音のまとまりの良さ、音がディープになり過ぎない、濃すぎないという意味でOveruture PM2の方が優れていると感じる方もおられるでしょう。私もその一人です。


Summary

マーケット的な観点から見れば、かなりハイクラスの価格帯でのコストパフォーマンスがありつつ、音の個性もあり、他社の高級プリメインと十分に差別化を図れる戦略的なモデルだと思います。また、他社が同価格帯のセパレートアンプを組み合わせ、200万円でこのサウンドを出したいと思っても難しいと思います。例えばあのLuxmanのC900u+M900uに、音の個性では勝るとも劣らない音質が聴けたのは意外な収穫でした。
あとはこのルックス、機能の少なさ、インテグレーテッドアンプの宿命である発展性の弱さをどう考えるか、ということでしょう。ただ、このサウンドの心地よさにハマってしまえば、そういうことは気にならなくなるはずです。

特に音楽とハイエンドオーディオとの距離に隔たりがあると感じた時に、このアンプは大いに示唆的な存在に思えてきます。価格もシステムの規模も身動きがとれないほど肥大してしまったハイエンドオーディオの重苦しさから、このプリメインアンプは私達を救ってくれる数少ない天使なのです。音楽を気軽に、しかも極めて素敵な音で聴きたいという向きには、このようなアンプがどうしても必要です。

ところで、外国でパーティなどに招待されたら、時間きっかりに行くのは無粋だと聞いた覚えがあります。そしてやたらと目立つ派手な衣装も失笑モノだと言いますね。
Accuphase 、Luxman、Esoteric、TAD、Qualiaなど既に多くのハイエンドオーディオブランドを擁する日本に、遅れて回帰したAudio Noteの態度には何かプライドのようなものを感じます。そして、その音を聞いてしまえば、その地味なルックスに、むしろ優美さを感じることもあります。エレガンスとはうわべだけのものではないからです。内に含む美意識が何かの形で滲み出てさえおれば、その実直で飾り気ない清潔なスタイルさえ優美と呼んでさしつかえないかと思うからです。
つまりは、これほどエレガントでありながら、これほどのプライドと実力をも兼ね備えるアンプはなかなかないということです。

ですが、今回のAudio Noteという古くて新しいキャストの登場が、ややもすれば雰囲気の陰りがちなハイエンドオーディオ界に華をそえられるか、疑問の余地はあります。
管球王国やステレオサウンドでは一年近く前から、何度か話題に上っているのに、店頭に現物はなく、日本のショウにも正式には出品されず、一般のオーディオファイルの多くが、ほぼ目にも耳にもできなかった、いわば幻のアンプ、Overture PM2。日本におけるハイエンドオーディオの先行きが不透明になる中で、このアンプが少し特殊なデビューをしたことに私は期待とともに不安を感じないわけではありません。良いモノなら高価でも売れるというような、呑気なご時世かどうか、私にはなんとも言えません。そもそも、売れるモノには勢いがあるのですが、昨今のハイエンドオーディオ機材にはそれがありません。

毎度のことですが、こういう昔風のアンプが若い人に受け入れられるかは心配です。これは最近の一部のハイエンド機材のようにスーパーリッチだけをターゲットにした冗長な製品ではありませんが、日本で言えば昭和生まれの人間だけに分かるモノの価値というのを主眼としているように見受けられます。デザインはあくまで簡素で、機能は少なく、単体では決して小さくなく、しかも立派なセパレートアンプが買える値段です。これでは音質に対してのみ重きを置く立場になければ購入に至らないでしょう。このような態度は現代の若い人たちにはやや無理があると映るようです。それから、実際に聞かなくては真価が分からない機材に、ほとんど実際のデモがないというのも困ります。

他の多くのハイエンド機材にも言えることですが、このような開発の方向性は、団塊の世代が生存する、ここしばらくは通用するでしょうが、ゆくゆくはオーディオ市場に担う平成生まれの人々の目に魅力的とは映らず、いずれ行き詰まるかもしれない。このままだと、ハイレゾを高らかに謳っても価格を下げず、ライナーノートさえつけないハイレゾ デジタルファイルのダウンロード販売と同じ末路を辿りかねません。
つまり、それを買うメリットが音質だけというのは通用しない世の中になっている気がするのです。
オーディオというものを、もっと広い視野から見るべきでしょうか。
ハイエンドメーカーとしての矜持と個性を保ちつつも新たなコンセプト、新たなコラボレーションを模索する必要があるでしょう。
何はともあれ、この天使の如きサウンドが、Audio Noteの新たな展開への序曲にすぎないと思いたいものです。

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by pansakuu | 2015-12-06 21:48 | オーディオ機器