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Wilson audio Alexiaの私的インプレッション: 天気予報

Wilson audio Alexiaの私的インプレッション: 天気予報_e0267928_21124664.jpg


「楽しい時ってのはあっという間だね あの頃 帰り道によく話したね
悲しみや苦しみもきっと同じはずだって なんて軽々しくは言えません
でも言わせて欲しい これだけは断言 
晴れ時々雨 雨時々晴れ
どっちが多いか少ないかじゃねえ どっちに転んでも降水確率100%
どうにもこうにもならないことだってあると
人智を超えている不確かな明日を 雨宿りをやめて晴れ晴れと歩こう 」
THA BLUE HERB TOTALより BRIGHTERの一節



Introduction

そちらに着いたときは、ひどい雨でしたね。
薄暗くて広々した貴方のリビングには、
ぼんやりと光る、大きく長い水槽があって、
龍のようなアロワナが悠然と泳いでいました。
いつまで眺めても飽きない光景。
巨大な水槽と同じくらい長くて大きいソファーに寝そべって眺めた、
ギラギラと順繰りにうねりながら光る鱗。
単調な雨音が退屈だったので、
フッと音楽が欲しくなって、なんか音楽かけてくださーい、と奥に声をかける。
アーウィング ペンにTUTUのジャケット写真を撮影してもらっていたマイルスみたいに。
でも貴方は返事もしないのです。ワインと肴の用意に余念がない。
そういえば、まともなスピーカーシステムが、ここにはなかったんでしたっけ。

地下に溜め込んだ値打ちモノのワインは一人では消費しきれないでしょう。
こんな豪邸も御家族が居なければ空き家みたいで無意味ではありませんか。
また凄いスピーカーを買って、昔みたいに音楽を聴いてくださいよ。
あの時みたいな凄い音で。

あれから2年ですか。
線量だけは低くなったんだけどね、なんていうお話も伺いました。
地震の前に着工した、この家に入るはずだった方々は大波で失われ、
貴方の家族は、今は、あのアロワナだけ。
贅沢な邸宅はガランとしていて
埋めようもない空白に占領されているようです。

壊れた生活を元に戻すことはできない。
しかし、新しく作り直すことはできるかもしれません。

今日という日も、どこか沈みがちな貴方に、
この前、聞いた素晴らしいスピーカー、
Wilson audio Alexiaをお薦めしようと思います。
最新でありながら、どこか懐かしい香りがする、
このスピーカーの音に身を委ねる未来の貴方を私は想像します。
Wilson audio Alexiaの私的インプレッション: 天気予報_e0267928_21131185.jpg


Exterior and feeling

パッと見て、これは少し太めのスピーカーだなと思いました。
その音に相似して、中肉中背をちょっと越えて、がっちりとした体格と見ましたね。正面からみるとやや末広がりな安定した形で幅は38cm。実は一つ下のSashaよりも一回り大きいだけなのですが、形の上での安定度はかなり上に思えます。
ウィルソンのスピーカーはピンヒールの四足スパイクで、全体の形としてはなにか腰高に見えることがありますけど、このスピーカーのデザインが持つ微妙な曲線の連なりがどっしりと安定した印象を見るものに与えます。そうなると、このスピーカーの姿形は、先鋭的というよりは、古代の石像のようなどこか古めかしい感じです。
実は、このメーカーがハイエンドオーディオの先端で重ねてきた歴史の重みのようなものを今回、初めて感じました。ウィルソン、マジコやクレルなどに代表されるような、エンクロージャーを鳴らさないことを至上とするスピーカーにおいて、タンノイやJBLなどのクラシックなスピーカーに感じるような伝統や血統、継代されて初めて生まれる風格を、ついに感じたと言ってもいいかもしれません。
Wilson audio Alexiaの私的インプレッション: 天気予報_e0267928_2113132.jpg

シルクドームツィーターとミッドレンジ、そして、なんと異なる口径のユニットで構成されるウーファー、それぞれに強固なエンクロージャーを与えたうえに、それらを別々に角度調節するという、他のメーカーには、とても真似のできない構成に感心します。狙った場所に位相の整った音をリスニングポイントに集中的に届ける思想が貫かれています。

上位モデルAlexandriaのジュニアモデルということですが、規模や値段、導入可能なリスニングルームの大きさを考えると、日本では、これが事実上の最上位モデルということなのでは?しかし、重さは片チャンネルで116kg!スパイクをそのまま床に突き刺せば、そのまま床を突き抜いてしまう場合もありそうです。リビングの広さや天井の高さはともかく、まずは床の木材の厚さを確認してから、導入を考えることになりそうですね。

それにしても、今の時代、やはり最先端スピーカーといえば、ドライバーの振動板の材質に、もっと凝りそうなものだと思うのですが、あえてシルクドームとペーパーコーンで済ませるとは。これが、老舗の洗練というものなんでしょうか。スネルのスピーカーもそうでしたけど、このクラスのスピーカーにダイヤモンドツィーターをあえて選択しない、セラミックやカーボン、アルミのウーファーを除外する、そういう勇気と見識が、このクラスのハイエンドスピーカーにしては取っ付きやすいサウンドにつながっていくのだと思っています。
Wilson audio Alexiaの私的インプレッション: 天気予報_e0267928_21132019.jpg

このAlexiaでも相変わらず塗装のカラーを選べるわけですが、これまた相変わらず綺麗な塗装です。ガンダムのプラモなんかをキレイに作ろうとして、エアブラシで吹いたりしていると、塗装というものが如何に難しいものかよく分かるのですが、このエンクロージャーの塗装は凄い。発色のみならず表面の平坦性とか、塗膜の強さとか研究し尽くされています。BMWなどの高級車の塗装に使われるシステムを導入しているらしいですから。均一で深みのある色合いはリビングの色調にマッチさせるべく、慎重に選ぶべきでしょう。ウィルソンオーディオもビビッドオーディオもカラーを選べるのですが、ワンペアにつき一色だけ。でもAlexiaは片チャンネルは事実上の3つの別々なピースで出来ているのですから、こうなるとコンビカラーも所望したくなりますよね。ピュアホワイトとジェットブラックのコンビとか、メタリックグレーとメタリックグリーンのコンビとか。全くナイ話じゃないと思います。


The sound 

やはりウィルソンらしい解像度の高さが光る音ではあるのですが、音の質感から来る洗練された親しみやすさが前面に出た不思議な音です。

エンクロージャーを鳴らさぬということをずっと前面に出して売ってきたウィルソンオーディオなのですが、ライバルとなるKrellのLATシリーズの登場あたりから、そういう一辺倒に突き詰めた雰囲気を脱却して、一本槍でない音、多彩なサウンドを出してきました。現在は、単純に鳴らないエンクロージャーを極めるのはマジコあたりに任せ、我がオーディオ道をさらに深く極めようというところでしょうか。

実は、シャープな音です。
私自身、System6を数年使っていた耳ですから、音のディテールが表立っているのはわかる。音の粒立ちもとても良くて、その質感は自然でリアル。でも昔のSystem6のような、クールで禁欲的で集中した音の出方ではなくて、むしろ開放的な音場を拓き、音の温度感も若干上げ、スムーズで柔らかい音作りを志向したもののように思います。オトナの音。

振動板の材質が極めて軽いものなのに、このスピーカーの能率はそこまで高い方でもない。このクラスのスピーカーで90dBですから。事実、ペーパーコーンを使った超高能率な昔のスピーカーみたいに軽々とした鳴り方はしないです。各帯域のつながりを良くするためのネットワークが重いせいでしょうか。音の軽さよりも、適度な重みを感じ、その程よい重みは音楽の安定感へとつながっていきます。

音のスケール感は特筆すべきで、音場は大きく深く広がって清々しい。このスピーカーの音場展開はマジコのように、どこまでも広く整理されているけれど妙に奥まった鳴り方、ビビットのG2 giyaのような全方向へ広がるけれど音像がやや朧(おぼろ)になる鳴り方、YGのように音場と音像が適度にバランスしつつも、音像自体がグィッと前に出るような振る舞いが時に目立つような鳴り方、どれとも違います。
開けた地平線を、遠く眺めやるような広々としたスペクタクルが展開しますが、左右の端は緩やかにフェードアウトするので、音場としては深さ方向の広がりの方がやや目立つようになります。しかし、単純に奥まった音にはならなくて、音像はリスナー側にもしっかりとせり出してきて、YGほど強くないにしろ、適度な音の圧力を常にかけてきます。ウィルソンのスピーカーは窓というよりは、レンズという印象が私にあります。Alexiaを用いれば、巨大な広角レンズで近景の飛び出しと遠景の奥行の深さを丸ごと写真におさめる快感を、音の世界で味わえます。

高域には、いかにも高性能ですよという訴えかけがなく、控えめな振る舞いを、まず感じます。超高域まで発音していることを暗示するかのような、ハッとする音の伸び方はしないです。ダイヤモンドツィーターを使うスピーカーで感じるような高性能感は微塵もなくて地味です。それから今までのウィルソンのスピーカーの高域よりも柔らかいことも付け加えるべきでしょう。でも、とても細密な音の描写であることに、ウィルソンらしさが出ています。

中域はタップリと厚みがありますが、透明感は抜群という少し変わった雰囲気ですね。アンプのせい?いやいや、それだけじゃないでしょう。声は落ち着いた太いトーンで描写され、朗々と響きます。音がとても澄んでいて見通しがいい。ここでもかなり細かな音の襞がよく見えるので、神経質な描写に偏るのかと思いきや、
音は鋭くならずに、あくまで柔軟さを基調にしています。やはり、この柔らかさが親しみ易い印象につながるのでしょう。

低域は非常に力強く鳴ります。大太鼓の連打は腹に来ました。ここで感じる音圧は暴力的な固い拳骨のようなものではなくて、ウーファーから吹く強い風当たりのようなものですが、音楽は終わった後で来るんですね、腹に。もちろん、このウーファーは、そういう重厚さばかりではなく、リズミカルで速い動きをする音楽にもしっかりついてくる、機敏なものでもありますから、Alexiaは、いろいろな音楽に上手に追随してくれる低域の持ち主だと思います。

Alexiaのサウンドは、見事なピラミッド型のバランスを保つ、堂々と安定したものです。これは完璧とさえ思える帯域間のバランスの良さ、各帯域の破綻のない滑らかなつながりから来るものだと思います。この背景には、優秀なネットワーク設計があるように聞こえます。こういうスピーカーは厳密なセッティングさえ施せば、明らかな欠点が見つけにくい見事な鳴りを披露するに違いありません。

確かに、これほど厳密なセッテイングができるスピーカーは少ない。逆に言えば、そこまで細かいユニットの位置の調整は要らないと、多くのスピーカーメーカーが思っているからかもしれない。つまり、このような機構が、いい音を得るために必須かどうかは分からないのですが、このような機構を活用すべく、ユニットごとに目盛りを読みながら、スピーカーの振り角を変えながら、あれこれと調整をしていると、突然、音が良くなるスィートスポットに出くわすことがあります。望遠鏡で景色を見ようとして、リングをあれこれ回している途中でピントが急に来たときの感動と、よく似た感覚です。ウィルソンの調節システムは一見、リスニングポイントを厳しく限定し、狭量な聞き方をリスナーに強いるのではないかと心配になるのですが、実際、調節して聞いてみると違います。勿論、そういう聞き方もできるのですが、逆にもう少し広くリスニングポイントを取れるセッテイングも可能なのです。要は、オーナー次第なのだと思います。


Discussion and Summary

昔よく聞いていた箱型のスピーカーと対面しているような要素がある音だと思います。懐かしい安心感と最新の音響技術の精華が融合したような音であり、訳知りのオーディオファイルに、その真価を訴えかけるタイプです。マジコやビビッド、YGなどの前衛を行くスピーカーに比べて、多少地味な出音ですけど、こういうスピーカーは、貴方のような手練れのファイルのところにこそ、納まりがいいのではないかと。なにより、この安心して身を委ねられる、ゆとりと親しみやすさが、この解像度、このサイズにして得られているというのがいいと思うのです。

東京に住んで、秋葉原や御茶ノ水なんかを徘徊していると、高性能な最新スピーカーを聞く機会がよくあるのですが、なにか一味足りないなと思うことがあります。喜怒哀楽があり、幸せがあり不幸があり、突然の出会いと別れがあり、対立と許しがある。そして、生と死も。人の世界は両立しそうもない様々な出来事と、それにまつわる理性と感情とで複雑に絡まっています。オーディオがそういう人間世界を表現したり、それを聞く人間の心に訴えたりするためには、機械的に突き離すような孤高の気高さではなく、傷ついた心を癒すような親愛が必要ではないか。私はAlexiaの出音の中に、現代のハイエンドスピーカーに見出しにくくなった愛すべき資質を少なからず感じたのです。

そういえば、お暇(いとま)するときには、
いい具合に雨があがっていましたね。
天気予報は雨のち晴れでした。
さすがに虹までは出ていませんでしたけど、
空は晴れわたっていて、気分は良かった。
冷たい空気の中に白い息。
後部座席から振り向いて見ていましたら、
いつものように大きな身振りで、
私に手を振り終わった後で、
青く澄んだ空を見上げて、
立ちすくんでおられるようにお見受けしました。

できれば、次回は愚痴じゃなく、
今度こそ、音楽を聞かせてくださいませんか。
新しくも懐かしき貴方の音でね。

by pansakuu | 2013-04-22 21:19 | オーディオ機器